ハマザキカクさんが紹介したのは、佐藤行俊氏による同人誌『60言語速記法』だ。
英語、アラビア語、タイ語、ラオス語、ビルマ語、カンボジア語を速記文字で書けるようになる、という触れ込みだが、ハマザキカクさんは開口一番「60言語というのはウソ」とバッサリ。というのも、60言語中20~30言語はアルファベットが用いられ、重複しているためだ。
またびっくりしたこととして、「全ページに自分の住所と名前を直筆で書いている」「前書きは速記と何も関係なく、母親が死んだという内容」「後書きでは、自分がいかに節約しているかを書いている。節約の理由は、本人いわく“贅沢をしている人は戦争を起こす”から」と挙げる。
ちなみの本書は、221万1900円をかけて、1万100部を自費出版したたが、これまで注文はゼロ。さらに著者の名前をググったところ、とんでもない過去が発覚した……というプレゼンをした。
大トリで登場したひだまいさんの所属する暗黒通信団は、全ページに渡って円周率を記載しているだけの『月刊円周率』など、自分たちが珍書を作っている組織だ。そんな彼が紹介したのは、同人作家・河村塔王による『、。』という小説。
小説、と言っても文字は一切なく、句読点と記号だけで構成されている。しかし、ただ奇をてらっているわけではなく、物語や登場人物を設定し、小説を普通に書いた後に、あえて記号だけを抽出したのだそう。
ひだまいさんは、「日本語の間やリズムが強調されている。読むのは疲れるが、何かを得た気分になる。小説の一つの形態としてあり」と評価。「見るだけではなく、読める本。これは小説に対する挑戦」と絶賛した。
投票の結果、チャンプ本に選ばれたのは『よーいドン!スターター30年(報知新聞社)』。一回戦で紹介した本がチャンプ本に選ばれた安村さんと、二回戦で紹介した本がチャンプ本に選ばれたとみさわさんの両者には、賞品として「珍(めずらし)」という人参焼酎が授与された。
珍書はただ変な本ではない。著者の偏愛やこだわりが詰まり過ぎているが故に、滑稽に見えてしまう本のこと。魂を注いで、本気で作られたことに変わりはない。そういう意味で、例え売れなかったとしても、おかしかったとしても、リスペクトすべき存在なのだ。この日のイベントも、まさに珍書への愛に包まれた“珍イベント”だと言えるだろう(取材・文 コエヌマカズユキ)。