「木の根」がコンセプトのブックカフェ 倉庫に広がる”好きなものだらけ”の世界観

福岡の南、大牟田市の街中に、青い倉庫のような建物がたたずんでいます。そこは、人が絶えず出入りするtaramu books&café。暖簾をくぐり木戸を開けると、奥の部屋にはハシゴが必要なほど高く並べられた本と雑貨たち。2階の喫茶スペースへとつながるスリリングな螺旋階段をのぼると、雑誌と木のテーブル・椅子が並んでいます。

一体どのようにこの空間をつくりあげたのでしょうか。そして、なぜこの場所でブックカフェを営んでいるのでしょう。店主の村田幸さんにお話しを伺い、taramu books&caféのこれまでと今、そしてこれからに迫ります。  

店主の村田幸さん(写真提供/おおむたまちなか新聞)

taramu books&café

福岡県大牟田市久保田町1-3-15

Tel.0944-85-8321

平日7:0019:00、土日祝11:3017:00(不定休)

福岡県大牟田市の中心駅・大牟田駅の西口から徒歩5分に位置するブックカフェ。もともと倉庫だった場所をリノベーションしてカフェとして再利用しているため、こじんまりとした広さながらも落ち着く雰囲気があります。店内には村田さんがセレクトした、ライフスタイル・生き方・食や哲学など様々なジャンルの本、小さな出版社の本などここでしか出会えない本たちが並びます。大牟田市周辺の地域で作られた靴やバック、植物の種などの雑貨も取り扱っており、本と共にレイアウトされています。

目次

お店のコンセプトは「木の根」

本屋スペースの一角、別の面にもぎっしりと書籍が並ぶ

 

――お店のコンセプトを教えてください。

コンセプトは「木の根」です。本は知識や教養を、人にとっての栄養として与えてくれるものです。木の根が、土から栄養を得て枝・葉・実をつけるように、人も本から様々な知識を得て、より深く生きる知恵を身につけることができます。この店をカフェとして知ってくださった方も、いつかは1冊でも本を手に取ってくれたらうれしいです。

 

――カフェであり、書籍や雑貨も販売していますが、どのように利用するお客様がいらっしゃいますか。

書店としてだけ、カフェとしてだけ利用する人もいます。一人で来るお客様同士が、この店で何回か会ううちに顔なじみになったり。近くの飲食店の人も来てくれたりします。私も趣味でお客さんが開催している教室に通ったりしています。

 

――地域の人たちの交流の場にもなっているのですね。お客さんはどのようにここを知ることが多いのですか。

本当に人それぞれで。口コミだったり、グーグルマップでたまたま見つけてきてくれたり。今朝来た男子三人組は、夜勤明けで朝から空いている店を探していたら、このお店がヒットして来店したということでした。仕事前や帰宅前に寄ることができるように、平日は朝7時から夜7時まで開けています。

2時間かけてモーニングを食べに来てくださったお客さんもいて、びっくりしました。モーニングの提供時間が過ぎていましたが、わざわざ来てくださったということで、特別にお出ししました(笑)。

カフェメニューはもともとパン教室に通っていた村田さんが考案

  大牟田市を選んだ理由と工夫

――村田さんは、どうして大牟田市でブックカフェを開こうと思ったのでしょう。

元々図書館司書や文具会社勤めをしていましたが、好きな本にもっと携われたらいいなと思い、居住地の大牟田で始めました。ただ、本屋だけでは経営が厳しいことは目に見えていたので、自分がセレクトした雑貨販売とカフェもセットで始めました。

 

――倉庫だった場所をリノベーションしたとのこと、工夫やこだわりがあれば教えてください。

大家さんが「好きに使っていいよ」と言ってくださったので、吹き抜けの部分もつくりました。私の旦那さんが大工なので、本業とのバランスをみながらゆっくり改修を進め、1年で完成しました。

雑貨部分は吹き抜けで開放感がある

各地から集めた雑貨

――販売している雑貨はどのように仕入れているのですか。

お菓子やパンは、近隣や広島・奈良などの遠方から販売に来ていただいたり、送っていただいたりしています。(長崎県)雲仙に2か月に1回くらいのペースで通っていますが、その時に偶然見つけたものを販売したりもしています。自分で食べておいしかったということが基準です。雑貨は、問屋さん経由もありますが、個人的に好きな作家さんと直接お取引させてもらっています。

 

 ――わざわざ長崎からですか!

そうです。ワークショップに来てもらった先生に勧められて雲仙に行ったところ、気に入ったお店がたくさんあって。タネトさんというオーガニック野菜の直売所もその一つで、消毒を一切していない完全無農薬の種を農園から仕入れて販売されています。すぐ隣に置いている本(『種をあやす 在来種と暮らした40年のことば(著・岩﨑政利/亜紀書房)』の著者・岩﨑さんのお野菜は、そのタネトさんで購入できるので、きっちり実物と本がリンクしているんですよ。

上・福岡のシューズブランドから直接仕入れる靴 下・完全無農薬の種

「来てほしい人」を招いてイベント開催

――お店でイベントもされているそうですが、印象に残っているものはありますか。

そうね~、『ぼくの道具(著・石川直樹/平凡社)』を書いた直樹さんのトークショーかな。彼は登山家・カメラマン・執筆もする人なんだけどね、来てほしくて直接メールを打ったんですよ。本当に来てくれることになって、そこからトークイベントの参加者を募って、ここの2階でやりました。

(参加したお客さん「もう、ぎゅうぎゅうでしたよね。私も参加したんですけど、席が足りないから人工芝を敷いて。直樹さんはお話しが上手で、スライドまで作ってこられましたよね」)

2Fの細いイートインスペースは、イベントでよく開放される

 

 ――大盛況だったようですね。ほかにはどんなイベントが?

 絵本作家のミロコマチコさんもイベントをしてくださいました。全国の美術館で展示会を行うようなすごい方なんですけど。この方にもうちに来てほしくて直接メールをお送りしたら、なんと本人が「イベントをやるには、その店の人となりや雰囲気を確かめないとできない」とおっしゃって、長崎の展示会ついでにわざわざここまで来てくださって。うちがイベントの際に使う屋台にライブペイントをやってくれることになったんです。

ミロコさんは動物の絵を描くので、近くの動物園に一緒に下見に行き、翌日に実際にペイントしてくれた上に、地方で頑張っている本屋を応援したいとのことで破格の低費用で引き受けてくれたんです。信じられず、今ではミロコちゃんって呼ばせてもらってます(笑)

 

――すごいことですね。村田さんがご自身でメールを送ってアポをとるのも勇気がありますね。

本を読んで一方的にしか知らない方でも、意外といけるんですよ。声をかけるタイミングを考えて、来てほしい人を呼び寄せています。

「現状維持」をしていきたい

――村田さんのお気に入りの本はありますか。

昔は小説が好きだったんです。中学生の頃とかよく読んでいましたが、大人になると、最近はノンフィクションばっかりです。空想の世界だけではやってられない、現実でやることが沢山あるからですよ(笑)。

最近お客さんに勧めた本は、『どこにでもあるどこかになる前に。〜富山見聞逡巡記〜(著・藤井聡子/里山社)』です。富山出身の著者が、大学で大阪に出て就職で上京したのち、地元富山に戻るとどのまちも同じような風景になっていることにショックを受けるんです。街のことを書いた本なんですけど、表紙のデザインがいかしてるんです。真ん中の丸に富山駅の写真で、それをめくると富山全部が映っている。トークショーにも招待していたんですけど、コロナの時期と重なって断念したんです。

これもおすすめですよ、『本屋で待つ(著・佐藤友則/夏葉社』)。これはね、広島で本屋さんを営む人の話なんですけど、いまの時代本だけじゃ売れないからまわりを商業施設にしちゃったんです。そのことが書かれています。


  

――本屋からお店が広がっていくというのはおもしろい構図ですね。今後、お店をどのようにしていきたいですか。

現状維持ですね。県内の小さい本屋さんは、支店を持ちたいって拡大しているところもありますが、経営も難しいみたいです。私は身一つでやってますんで、ここだけで精一杯ですし、他の支店をやるとしたら、せっかくここに来てくれるお客さんに申し訳ないです。ここに来てくれる人とこうやって話したりするだけで充分、それ以上のことはできません。

 

ーー本や作家さんやお客さんに対する愛情の深さや、自身の好きなことを広めたいという村田さんの姿勢をとても感じました。今日はありがとうございました!

おわりに

一人で本・雑貨・カフェという3つの役割を持つお店をきりもりする、村田さんの日々の努力の大きさを感じました。本を広めたいけれど、そのきっかけはおいしいものや雑貨でもいい、という自由な考え方にも惚れました。

お店での常連客同士の話からは、地域の漫画文化や商店街についてなど、この場所に根付いた話題もちらほら聞こえてきました。コンセプトの「根」を体現し、地域に根付き、人との根強い関係を生み出す場所。そして、本と自然に出会えるtaramu books&caféは、これからもしなやかに、より深くへと根を張らせていくのでしょう。(取材・文 上田裕菜)

取材後にいただいたニンジンジュース。人参とレモンの相性抜群でさっぱりした味

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