私は断然、文庫本派だった。本屋へ行くと真っ先に文庫本コーナーに向かう。書店員の書いたポップを眺めつつ、惹かれた一冊を手に取る。背表紙のあらすじを読んで、「うん。やっぱり面白そう」。小さくて持ち運びしやすいし、価格も単行本に比べれば求めやすい。
しかし、私は今、単行本派に傾こうとしている。きっかけは半年前に始めたバイトだ。今までのバイトより時給が高くて、私は貧乏大学生からプチリッチ大学生へと進化した。財布が潤っているときに本屋に行くのは大変気分が良い。いつもは手が出せなかった新作の単行本。「思い切って買っちゃおう」。文庫化されるのが待てなくて買った。
これが沼の始まりだった。重くてずっしりしているけど、家でゆっくり読むのに何だか良い。表紙も装丁が拘っていて、手触りなんかも楽しんで。何より好きな作家の新作にいち早くありつける。
読書好きの間では意見が割れることも多い「文庫本派VS単行本派」問題。それぞれ良いところがあると思うが、令和の読書好きたちに意見を聞かせていただいた。
文庫派優勢か?安さと持ち運びのしやすさ
26名の読書好きの方々がアンケートに協力してくださった。結果は61.5%の人が文庫本、38.5%の人が単行本推しとなった。それぞれ選んだ理由も併せて見ていこう。まずは多数派の文庫本。
「コンパクトで収納や持ち運びに便利、単行本よりも安価である、表紙が柔らかくて手に持って読みやすい(女性・40代)」
「持ちやすい、安い、本屋で探しやすい(男性・50代)」
「なんと言っても安い。安い方がたくさんの本を買えるから。また、文庫本の方がサイズ的に読みやすいから(女性・20代)」
文庫本派の圧倒的な支持理由は、「持ち運びのしやすさ」と「単行本に比べたときの価格の低さ」であった。文庫本は1冊あたり約200gなのに対し、単行本はソフトカバーでも約300g、ハードカバーなら約450gと結構重さが変わってくる。ちなみに豆腐一丁が大体400gらしい。豆腐と聞くとそこまで負担に感じないかもしれないが、大抵は本のほかにも荷物があるし、1日ずっと持っていることを考えると、やはり肩や腕がつらくなってくる。
そして文庫本が大体500円~800円くらいで購入できるのに対し、単行本は安くても1200円くらい。高いものなら数千円と2倍以上の開きがあることが多い。大学生のアルバイトの時給が1000円前後なので、単行本を買うために2時間働かなければならない。
またかさばらず、収納しやすいところもポイントである。単行本のサイズがB6判なのに対し、文庫本はA6判と一回りくらいコンパクトだ。本好きなら誰でも経験しているであろう、“本棚全然足りない問題”。私も幼いころから本棚のスペース確保は永遠の課題だった。文庫本は小さくて背も低い分、たくさん入れることもできる!
このような意見もあった。
「コンパクトで軽く、読書へのプレッシャーが小さいから(男性・40代)」
確かに、軽くてコンパクトな文庫本は場所を問わず読みやすい。それこそ電車の中など狭いところでも、空間をそんなに使うことなく読むことができる。単行本は重くて大きい分、「よいしょ」と軽く気合を入れる必要もあると感じた。
新作をすぐ読める、家で読むときにいい……単行本派も負けない!
続いて単行本派。
「新作が読みたいので(男性・50代)」
「そもそも読みたい本が文庫に落ちてない(男性・30代)」
いただいた意見を読みながら「ウンウン、そうだよなあ」と共感した。文庫本の方が安いことは理解しているが、「気になる本を早く読みたい!」という欲求にはあらがえない。私も「図書館で予約して待つべきか。文庫化を待つべきか」と悶々とした後、結局「えい!」と買ってしまったことが多々あった。
「文庫は持ち運びやすいのですが、最近はステイホームで自宅でゆっくり読むことが多いため、ハードカバーでしっかりした単行本の方が個人的に好きなためです(女性・40代)」
「これ、本当にすごく分かります!!」と握手をしたいくらい、私も同じことを最近思っている。重厚な単行本、おうちでゆったり楽しむ時間って最高に満たされる。
あと、私にはなかった考えがこちら。
「最近老眼が辛くて…できるだけ大きい文字で読みたい派です(女性・50代)」
でも言われてみると、私も最近パソコンの見過ぎで視力低下してしまったので、大きい文字の方が見やすいと感じる気も。私の母も数年前から老眼になり、とにかく文字を読むのが難しいと言っていた。そうなると自動的に単行本派になりそうだ。
さらに印象的だったご意見。
「特にこだわりはありませんが、作者さんの手元に少しでもお金がはいればと思い選択しています(男性・20代)」
素敵な考え方! 好きな作家さんを応援したい、というファン心だ。私は万年貧乏な気もするが、同世代の方がこんな素敵な考えを持っているのは純粋に素晴らしいと思う。私も見習おう。
読書体験が素晴らしければ、どちらでも良い
アンケートに回答してくださった方に感謝である。幅広い年代の方がご意見を寄せてくださったおかげで、自分にはない考えも知ることができた。また読書好きのご意見だからこそ、リアルに頷いてしまうくらい共感の嵐。
こうして見比べると、文庫本にも単行本にも甲乙つけたがい魅力がたくさんあった。自身の読書の目的やスタイルに合わせて文庫本か単行本を選択して、両方のいいとこどりができたら理想的だろう。文庫本派か単行本派に関わらず、自分の読書体験を素晴らしいものにできたら、究極どちらでも良いのだ。(文・みるら)