【第2回】世界のバックパッカーに聞く!「ねえ、何の本持ってきた?」in タイ

 

2人目:レダ(28歳/フランス・レンヌ)

 

優しさと知的好奇心にあふれた瞳をしていたレダ。職業を聞いて納得。

 

「ソーシャルワーカーとして、ストリートチルドレンを保護する仕事をしています。9月半ばに出発し、まずロシアへ20日間滞在しました。ロシアの文化や歴史に興味があったので、現地を知って感じたかったんです。サンクトペテルブルクは街全体が博物館のようでしたよ。

 

もちろん実際の博物館も行きましたが、旅の目的は人々とのつながりを感じることだったので、人間により意識を向けていました。その次はマレーシアへ2週間、そしてタイに来ました。2週間滞在した後はベトナムとフィリピンへ行きます。3ヶ月の旅で、12月半ばに帰国予定です」

 

持ってきた本

「Crime et chatiment」Dostoievski

 

日本語版:「罪と罰」ドストエフスキー著、工藤精一郎訳

 

言わずと知れたロシアの文豪、ドストエフスキーの歴史的傑作。高い知性を持ちながらも貧困にあえぐ若者ラスコーリニコフが、独自の哲学のもと手を染めた犯罪のために悩み苦しむ様を描く。普遍的なテーマでありながら当時の社会主義思想への批判をも含み、人間への希望が託された長編小説である。

 

「出発時は他にエドワード・バーネイズ(『広報の父』と呼ばれるオーストリア系アメリカ人)の『プロパガンダ』も持っていました。仕事で個人心理学を使うのでずっと気になっていたのですが、今まで読む暇がなかったので、旅に最適な本とは言えませんが持ってきたんです。読んだ後モスクワでフランス人旅行者にあげました。もう1冊がこの本です」

 

この分厚い名作を選んだ理由とは?

 

「ロシア旅行のために持ってきました。物語の舞台であるサンクトペテルブルクを訪れることで、作品の細部まで感じられると思ったんです」

 

作品の感想は?

 

「今は6割くらい読んだところなのでまだ結末にたどり着いていませんが、傑作だと思いますね。人物の心理や社会の描写が並外れています。19世紀フランス文学のバルザックやフローベール、スタンダールを思わせる、同種の作品だと思います。精緻な細部の描写に富んだ傑作ですよ。

 

例えば手術では細部の処置に気を使うと思いますが、この作品はまるで手術みたいな文学です」

 

作品の舞台で読むことで得られたものとは。

 

「サンクトペテルブルクでは上流ではない地域も訪れました。現在では優雅な雰囲気がありましたが、作品の書かれた19世紀には悲惨な地域だったので、そのコントラストを感じました。道で近隣の人と話したりして、物語への理解を深めることができました。作品を読みながら旅をすることで、1箇所で2つの印象を得ることができるんです。

 

一方で得た印象がもう一方で進化するので、より豊かな気づきを得ることができます。その国を去っても印象は記憶に残って進化し、僕の人生の一部になるんですよ」

 

ロシア文学の魅力はどんなところにあるのだろう?

 

「ロシア作家には並外れた悲劇的な感覚があって、心を奪われます。一個人の人生でさえロマンや悲劇に富んでいて、とても興味深いんです。ロシア文学は長いですし読むのに忍耐が要ります。味わうにはよく噛まなくてはならず、だからこそ細部の描写に感謝したくなるんですよ」

 

フランスにも偉大な作家が大勢いるが、彼の考える最も偉大な作家とは?

 

「もし1人だけを選ぶなら、カミュですね。代表作『異邦人』は17歳頃に読みましたが、私に社会の様々な側面についての気づきを与えてくれました。当時は若かったので、今ならまた別の観点から読めるかもしれませんね」

 

フランスの高校生はみんな読んでいるのだろうか?

 

「他国と同様にフランスでも読書人口は減っていると感じます。また、『トレインステーション文学』などと呼ばれる、ファストフードのような文学が増えていますね。『異邦人』は、少なくとも教育奨学金などを目指す学生の間では一般的な本です。

 

僕の周りの友人たちはそれぞれ異なった社会階級にいますが、本を読んでいる人は沢山います。読書人口は減ったとはいえ、他国に比べるとフランスの状況はそれほど悪くないと思いますよ。地下鉄でも1〜2割の人は本を読んでいます」

 

彼の読書習慣はどのように身についたのだろう?

 

「我が家では母はいつも文学を、父は政治の本を読んでいたので、 幼い頃から本に囲まれて育ちました。祖母も文学が好きでしたし、図書館で借りた本を友人達で交換したりという文化がありましたね」

 

あなたにとって本とは?

 

「他の誰かの視点です。目というより、眼鏡ですね。本を読むことで、違うものの見方をすることができるんです。また、僕は生活のルーティンが好きなんですが、読書はそのうちの一つです。一人で遠い異国を旅するときは特に、日頃から慣れ親しんだ習慣が大切になりますよね。生活にリズムを生んでくれます。

 

本は歴史や社会、アイデンティティや感情など、人間が生む全ての物をそこに見つけることができる貴重な道具です。まさに人類のアーカイブであると思います」

 

レダの高い教養と洗練されたものの見方に、フランスの精髄を感じずにはいられなかった。