ちゅーぬはなしやいっぺーうむっさん
ゆったいぬまぶやーがくどぅちすんどー
この文章、あなたには読めましたか?(正解は後ほど) これは沖縄出身の4人のラッパー(Awich、唾奇、Ozworld、CHICO CARLITO)による、ヒップホップの楽曲『RASEN in OKINAWA』の歌詞を抜粋したもの。使われているのは、沖縄の方言「うちなーぐち」です。
この楽曲は2023年3月に配信され、後にメンバーの一人であるAwich主催のアルバムに収録されました。同年5月に公開されたMVはわずか一ヶ月で300万回再生を突破しました。
4人のマイクリレーで、ひときわ異彩を放つのが「うちなーぐち」を多用したOZworldのパートです。耳馴染みのない言葉の響きと沖縄特有のうねるような節回し、深みのある歌声も相まってぐっと世界に引き込まれます。しかし、「うちなーぐち」全開の歌詞は、文字を注意深く追ったとしても意味を理解できない人がほとんどではないでしょうか?
本記事では「RASEN in OKINAWA」Ozworldパートの「うちなーぐち」に着目し、そこに込められたメッセージを読み解いていきたいと思います。
今宵の話は面白い
くゆいのはなしぬうーむっさ すりさーさー すいすい
訳:今宵の話は面白い
「くゆい」は今宵、「うーむっさ」(うむさん)は楽しい、面白い、という意味で「今宵の話は面白い」という意味になります。「すりさーさー すいすい」は沖縄特有の掛け声で、意味というよりも響きを楽しむものでしょう。
実はこの導入部分、歌詞としては記載されていません。調べてみると、このフレーズは『久高万寿主』というエイサーの定番曲からの引用のようです。
「くゆいのはなしぬうーむっさ すりさーさー」という節は、今宵の話は面白いぞ、という口上として曲の中で繰り返し謳われるフレーズです。聴いてみると、音階や節回しも丸ごと引用しているのが分かります。これからOzworldのラップが始まるぞ、という前口上なのですね。
四人の魂が口説するぞ
ちゅーぬ はなしやいっぺーうむっさん
ゆったいぬマブヤーがくどぅちすんどー訳:今日の話はとても楽しい 四人の魂が口説するぞ
「ちゅー」は今日、「いっぺー」はとても、「うむっさん」は前のフレーズに出てきた「うーむっさ」と同じく、楽しい、面白い、という意味です。「久高万寿主」の引用詩をサンプリングする形で、これから始めるラップフレーズへの盛り上がりを高めています。
「ゆったい」は四人、という意味で、この楽曲を構成する四人のラッパー、Awich、唾奇、Ozworld、CHICO CARLITOを指していると思われます。
続く「マブヤー」は、沖縄の人にとって重要な意味を持つワードです。同じ意味を持つ「まぶい」という単語は聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。これは、いわゆる「魂」といったようなイメージの言葉です。
沖縄では昔から人間の体にはいくつかの「まぶい」が宿っていると考えられており、びっくりしたりショックを受けたりすると「まぶいを落とした」と言うのだそう。魂という言葉よりも、より生活に根ざした概念のようにも思えます。その人自身の生命力、エネルギーのようなものと言ってもよいかもしれません。
次の「くどぅち」ですが、これは「口説」と書き、歌舞伎、浄瑠璃などで感情や風景を物語る芸能のことを指します。17世紀以降に薩摩から琉球に伝わったと言われており、大和言葉を「うちなーぐち」読みで語るのが特徴。大和言葉とうちなーぐちの融合、まさに「RASEN in OKINAWA」というこの楽曲そのものと言えます。
沖縄が方舟
旅の始まりは南くぬ島に
落ちる稲光 ウチナーが方舟訳:旅の始まりは南のこの島に 落ちる稲光 沖縄が方舟
「くぬ」はこの、「ウチナー」は沖縄という意味です。
方舟といえば、旧約聖書に登場する「ノアの方舟」伝説が有名です。大洪水によって地上の全てのものが押し流されていくなか、方舟に乗ったノアとその家族、そして雌雄一対の全ての動物たちだけが生き延び、そこを祖先として世界が再生してゆきます。人類の旅、世界がここ沖縄を起点として始まるのだという、沖縄の豊かさと強かさを感じさせる詩です。
踊り出す 子ども、おじいちゃんとおばあちゃんと先祖神々
踊り出すかちゃーしー ワラビー おじーとおばーと先祖神々
訳:踊り出す 子ども、おじいちゃんとおばあちゃんと先祖神々
「カチャーシー」とは三線の速弾き曲にあわせて踊る、沖縄の舞踊のことです。両手を頭の上に掲げ、手首をくるくると返しながら左右に振ります。アップテンポで華やかな踊りで、宴会の終わりなどに踊られることが多いようです。
ワラビー(こども)、おじー(おじいちゃん)、おばー(おばあちゃん)、それに先祖神々さえも一緒になって華やかにかちゃーしーを踊り狂う、賑やかな様子が目に浮かびます。墓で宴会をする文化があるなど、先祖(死者)の存在をより身近に、そしてポジティブに捉える沖縄の人々の価値観が表れているようです。
死んでもどうせまた来世で会いましょう
てぃーだはまるで光るビー玉
赤ん坊は宝 一番シージャさにーさんとねーさんとWake upの映画さ
楽しんだもん勝ち 遊びがMake My life
死んでもどうせまた来世で会いましょう
螺旋描いて上に高く昇る訳:太陽はまるで光るビー玉 赤ん坊は宝、一番先輩さ(以下略)
「てぃーだ」は太陽のこと、「シージャ」は兄や姉、先輩、年上の人のことを指す言葉です。
「死んでもどうせまた来世で会いましょう/螺旋描いて上に高く昇る」と後に輪廻転生を思わせる歌詞が続くので、これから死(転生)に向かう大人に対して、赤ん坊を転生を経たばかりの存在として捉え、「シージャ」と表現しているのでしょう。
沖縄の一般的なお墓「亀甲墓」は、女性の子宮をモチーフにしていると言われています。輪廻転生という考えは日本全国に共通する死生観ですが、沖縄という地にはより深く染みついた思想なのかもしれません。
ねーさんのHABUSH飲んで酔っ払う
わったーしまんちゅは泣いても笑う
血で血洗わず酒飲んで流す
ねーさんのHABUSH飲んで酔っ払う
くゆいも始まる宴だぜ
さっわ さっさいーやさーさー
わったーぴーたーぱんさー訳:私たち島人は泣いても笑う 血で血洗わず酒飲んで流す
姉さんのハブ酒飲んで酔っ払う 今宵も始まる宴だぜ
さっわ さっさいーやさーさー(掛け声)
私たちがピーター・パンさ
「HABUSH」とは楽曲のメンバーでもあるAwichが作るオリジナルハブ酒のことです。ハブ酒は泡盛に毒蛇のハブを漬け込んだもので、滋養強壮に効くとして古くから沖縄で親しまれてきました。「わったーしまんちゅは泣いても笑う/血で血洗わず酒飲んで流す」という歌詞もあるように、ハブ酒というワードは毒をも薬に変えてしまう沖縄の人々の強かさを表現しているようにも取れますね。
この楽曲を通してOzworldが歌い上げたのは、酸いも甘いもハブ酒のようにあわせて飲み下し、宴のように楽しく華やかな人生を生きよう、というメッセージなのではないでしょうか。
終わりに
その響きだけでもつい引き込まれる「うちなーぐち」ですが、意味を知らないままでは勿体ないほど強いメッセージが込められた歌詞でした。Ozworldのスピリチュアルな世界観、そして何より毒をも薬に変えていくような強かさは、沖縄の風土に強く由来しているのかもしれません。
また、「まぶやー(まぶい)」などのように単純な翻訳ができない、思想と一体となっている言葉もあり、言葉というものには自ずから土地の環境や信仰などが溶け込んでいることを強く感じました。現在、日常生活で「うちなーぐち」を使うのは年配者のみで方言が絶滅してしまうという声もあるようですが、だからこそ、こうして多くの人の耳に入る歌詞という形で言葉が語り継がれていくことには大きな意味があるように感じます。(文 キノウ)