終演後、志ら乃さんに話を聞いてみた
ぜひいろいろお話を聞いてみたい。そう思って終演後の楽屋を訪問すると、志ら乃さんは快く取材に応じてくださった。
―文学作品を落語にする取り組みは、以前からなさっているのですか?
はい。最初にしたのは安部公房の『砂の女』でした。すると周りの人たちから、「内田百閒とかやらないんですか? こんな作品ありますよ」とたくさん紹介されるようになったんです。
その矢先に「太宰治の『カチカチ山』を題材にした落語をしませんか?」というお誘いがあって、『転宅』という落語に『カチカチ山』の要素を足した噺を作りました。それが案外面白いってことになり、いろいろな太宰関連のイベントに呼んでもらって、太宰作品の落語を披露するようになったんですね。
―太宰作品を落語にしてみて、手ごたえはどうでしたか?
太宰の作品を何冊か読むと、暗い作品ばかりじゃなく、おちゃらけた作品もあるんだ、という発見がありますよね。けれど、何だかんだで本を読む人と読まない人ははっきりしています。
普段本を読まない人が、落語を通して「太宰ってこんな楽しい話も書いていたんですか?」と驚かれるのを見たときは、落語の新たな可能性を見いだせたようでした。
―今回、なぜ『竹青』を題材に選んだのですか?
『かちかち山』を読んでいるときに、同じ本に『竹青』が入っていたんです。読んでみたら夫婦の話で、SF的なノリがあって、カラスっていうキーワードもあり、面白そうだなと。
実は、最初は『グッド・バイ』を落語にしようと思っていたんです。あれは未完だから、「私が落語でサゲをつける」みたいなことを言っていたんですが、難しいなと。読んで面白いものと、落語で聞いて面白いものはやっぱり違うので、変換するのが大変なんですね。
特に読んで面白くでき上がっているものは変換しづらいんです。それを超えるにはどうすればいいんだ、っていうね。
―志ら乃さんは、元々文学がお好きなのでしょうか?
中学の卒業文集には「ノーベル文学賞を取る」なんて書いてました(笑)。三島由紀夫に被れて読み漁っていましたね。三島が太宰を嫌っていた、と何かで読んだりすると、「太宰を読んでる奴なんかは……」って自分も言うみたいな。
あとタイトルにやられて、坂口安吾の『堕落論』も読みましたが、難しい漢字ばっかりだから飛ばして読んだり(笑)。大学では文学部だったのですが、落研に入ってからは勉強しなくなりましたね。
―そうだったのですね(笑)。志ら乃さんといえば、古典落語以外にも、色々な分野とコラボをした創作落語を積極的に行っていますよね。
もともと色々な作品を見るのが好きなんです。見ているうちに、「これを落語にするとどうなるんだろう」と思って、やってみるっていうね。それで、どうせだったら本当の人とやってしまおうと、℃-uteの落語をしたんです。
℃-uteを知らなくても分かるような作りにしたら、ファンの方もいっぱい来ましたし、落語がきっかけで℃-uteのことを調べてみた、なんてお客さんもいて嬉しかったですね。
―志ら乃さんの手にかかると、大抵のものが落語に結びつくんですね
そうなんです。しかも、モチーフを知らなくてもちゃんと分かるようにしています。元ネタありきのものは、実は簡単なんです。℃-uteのファンだけ集まっているところで、当日が雨だったら、(メンバーの)矢島舞美が雨女っていうのをみんな知ってるから、「今日はやっぱり雨ですね」と言えばドカンとなる。
でも知らなきゃ通用しないでしょ? それが嫌で、わざと苦行をしているんです。どんな作品でも俺は落語にできるぜ、って言いたいですね(笑)。
―それは、落語をより多くの方に広めたいという思いからですか?
うーん、自分の落語のスタイルをまず確立したい、っていう思いが一番先にありますね。ほかの落語では語れない面白い落語を語りたい。それを面白いと思ってくれる人がいて、落語を好きになってくれて、結果的に広がればいいなとは思いますけど、まず自分です(笑)。
―今後、「らくご錬金術」に来てみたい、という方へメッセージをお願いします。
ただ落語を楽しみに来る、っていう方にも十分楽しんでもらえる準備をしていますが、ちょっと創作活動をしてみたい、という方にも来てほしいですね。
「らくご錬金術」は、アフタートークで作品を育てようっていうイベントなんです。私は人の意見はすぐ採用しますから、お客さんの意見も採用する確率が高いですし、作品が成長する歴史に触れませんか? エンドロールに名前を入れに来ませんか? みたいな感じですね。
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次回の「らくご錬金術」では、何と『キン肉マン』を落語化するという。今後、『ドラえもん』も落語化する構想があるそうだ。様々な分野とのコラボレーションは、落語家・立川志ら乃さんの挑戦であると同時に、互いの魅力をより多くの人たちに広める架け橋になることでもある。
志ら乃さんは落語を通じて、お互いの魅力をより多くの人たちに広めていくのだろう。この先も、どんな分野や題材が落語になっていくのか、楽しみでならない。(取材・文 イトモユミ)
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