前代未聞の選考方法!面接で受賞者を決める「第一回クランチノベルズ新人賞」

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約一年越しの授賞式はアットホームな雰囲気に包まれた 左から林氏、今村氏、佐久本氏、干場氏

 

7月30日、ある小説の新人賞の受賞記念イベントが下北沢B&Bで行われた。 その賞の名は、 (株)ディスカヴァー・トゥエンティワンとCRUNCHERS(株)が共同開催する「クランチノベルズ新人賞」。総勢828通の中から選ばれた受賞者の佐久本庸介氏が、ディスカヴァー・トゥエンティワンの取締役社長・干場弓子氏から賞状を授与されるところから始まったこのイベント。

 

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「受賞したのは何か月前だったっけ?」と干場氏が笑顔で聞くと、 「去年の8月です」と司会の同社編集、林氏が答える。 「一年越しの授賞式ですね。長い道のりでしたね……」と感慨に満ちたコメントをしたのは、小説投稿サイト「クランチマガジン」の編集長で賞の設立者でもある、作家の今村友紀氏だ。賞状を受け取る佐久本氏を含め、みんな何だか仲が良い。打ち解けあっているというか、お互いをよく知っているような雰囲気だ。

 

この仲の良さはなぜか? そもそも、1年前の授賞式をなぜ今になって行っているのか? その秘密は、応募作品の質だけでなく、著者を面接して賞を贈るか判断するこの新人賞の選考方法にあった。

 

投稿作品の小説の魅力をデータ解析。その後面接によって最終選考

 

現在、どの新人賞も作品を選考して受賞者を決める流れができている。しかしそれでは、受賞作以後の作品が生まれない場合もある。そこで、継続的に小説を書いてくれる人を選び、支えていくことが何より大事だろうと今村氏は考え、前代未聞の「面接して受賞者を決める」という選考方法の賞を企画した。

 

受賞までの道のりは、小説家志望者が提出した作品を、データ解析を用いながら審査。その後、魅力のある作品を書いた著者を、今村氏と干場氏が面接し、受賞者を決定するというもの。素質を認められた著者に賞が授与された後に、デビュー作(受賞作)を作り始めるというスタイルのため、受賞したのは昨年でも、作品の完成が今年になったというわけなのだ。

 

デビュー作を作るにあたって、受賞者の佐久本氏を今村氏が全面的にバックアップ。いくつかネタ出しされた中から原案になるものを選び、推敲を重ねて本作品が完成した。 筆者が感じた今村氏と佐久本氏の、ただの選考者と受賞者ではない慣れ親しんだ信頼関係は、約1年間の共同作業によるものだったのだ。

 

ディスカヴァー・トゥエンティワンが小説業界に参入した意外な理由

 

この風変わりな賞に賛同したディスカヴァー・トゥエンティワンは、ビジネス系書籍をメインに手掛ける出版社だ。畑違いの出版社がなぜ、このような賞に関わることになったのか。同社取締役社長の干場氏はこう振り返る。

 

干場「わが社ではこれまでビジネス書を中心に出版していましたが、書籍を海外に向けて展開するとなると、一番力を持つのは小説なんですね。そこで、海外にも発信できる小説分野にも参入しようとしたときに、お話をいただいたのがこの賞の企画だったんです」

 

ビジネス系書籍は海外に売るコンテンツとしては弱く、リクエストは小説がほとんど。そんな中、「クランチノベルズ新人賞」は、小説業界に足を踏み入れようとしていた同社にうってつけだったわけだ。

 

干場「本を出版するうえで、編集者が企画段階からかかわっていくことや、こちらから企画を提案させていただくことなどは、ビジネス書の制作をする上ではよくあることです。執筆のバックアップなども行って出版物を作り上げていくので、「クランチノベルズ新人賞」から本が生まれるまでの過程も納得のいくものでした」

 

と、ビジネス書を多く手掛ける出版社ならではの視点で協力を決めたことを語った。

 

一時は企画がボツに。それでも佐久本庸介氏が選ばれた理由

 

作品選考の段階では、トップの成績ではなかったという佐久本氏。それでも最終選考に残り、デビュー作となる小説の企画書を提出したが、一度はボツになってしまう。企画書の再提出を求められ、締め切りの2日前に、佐久本氏は10本ものプロットを書き上げた。その中の「ロボットの青春」という1000文字ほどの情景描写が描かれたプロットが、今村氏の心に響いた。

 

そして迎えた面接。今村氏、干場氏ともに「この人だ」と思ったという。佐久本氏の魅力とは、何より「書きたいものがある」ということ。デビュー作「青春ロボット」には、普遍的な痛みと切実に伝えたいメッセージが込められている――この部分に二人が惚れての受賞となった。

 

小説を書くために本当に必要なこと

 

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イベントではこのほかにも「青春ロボット」制作秘話などが語られ、盛り上がりをみせた

 

今村氏・干場氏・佐久本氏によるトークイベントの中でも、作家にとって「書きたいものがある」ことがいかに大事か、熱く語られた。

 

今村氏「作品を書くときに、実は一番難しいことは「どう書くか」ということではなく、「そもそも何を伝えたいのか」というところ。それを意外とわかっていないで書いている人が大多数なのではないかと。自分の経験でも実際にあったんですね。

 

伝えたいことを書いて全部出し切ってしまうと――僕の場合、二作目の「ジャックを殺せ、」がそうだったんですけど、それ以降書くものがボツになってしまって。後から考えたら、「書きたいこと」がなくなってしまったからだったのだろうと(中略)佐久本さんは、その「書きたいこと」が自然にある。僕の場合、語りたいことなんてない!出し切った!って瞬間もあるんですけど、佐久本さんにはそういうことはないんですか?」

 

佐久本「僕は常に不安を抱えていて、何かしら考えているので……(笑)。例えばいつも楽しい生活を送っている人は、楽しい小説を書くのに向いていると思うんです。僕みたいに、不安とかそういうことばかり考えている人は、暗いものを量産しがちというか……」

 

今村「じゃあ、僕みたいに浮き沈みがある人は?世界は俺のものだ!と思った次の日には、俺は死んだ方がましだ!と思っているんですけど(笑)」

 

佐久本「それは、もう、その浮き沈みをまっすぐ書くべきですよね。人には書けないものですし」

 

今村「結局その人自身でしかいられないわけですし。本当に、自分はこういう人間で、そういう風に生きているんだなと受け入れられないと、書けないんだなぁと」

 

干場「やっぱり心がないとね」

 

小説を書くということは、自分自身を受け入れるということ。テクニックだけではなく、書きたいものを書くこと――そんなシンプルだけれども重要なことに主眼をおいて選ばれた佐久本氏。彼のデビュー作「青春ロボット」は、中学生から高校生にかけて人を傷つけたり、現実に打ちのめされたりする主人公が、時に停滞しながらも前に進む“やり直し”の物語だった。

 

その「青春ロボット」に続く作品はでるのか――と、気になるのは「第二回クランチノベルズ新人賞」の開催時期だ。デビュー作を作家と企画の今村氏の共同作業で進めるという賞の性質上、年一回の開催は難しいとのこと。

 

本当に素晴らしい一握りのものにチャンスをかけるため、不定期、または随時募集を考えていて、よい作品に巡り合えたら開催ということになりそうだ。

 

「そんなに待てない!」という方も安心していただきたい。「クランチノベルズ大賞」とは別に、ディスカヴァー・トゥエンティワンは「本のサナギ賞」も手掛けている。これは現役書店員の協力をもとに賞を選定し、大賞作品は初版2万部を出版するというユニークな賞だ。現在、第二回の募集も行っている。

 

「文壇」から離れた冒険心あふれる賞も出始めた小説業界。小説を書きたい人も、読みたい人も、一風変わった賞の受賞作品に目を通してみてはいかがだろうか。(取材・文 四畳半しけこ)

 

(青春ロボット)

主人公の手崎零は博士に作られたロボットとして、人間を幸せにするための情報収集のため中学校の中に紛れ込んで生徒としての生活することになった。だがそこでの人との関わりの中で、取り返しのつかない「ある出来事」を起こしてしまう。 一度失敗した零は、その後の高校生活で少しずつ再生していくが、やがて彼自身が知らなかった問題が現れる……。