【6/7】『月に吠えらんねえ』清家雪子先生インタビュー 唯一無二の近代詩ワールド舞台裏

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朔太郎という「天才」が「天才になっていく過程」が好き

 

―清家先生の絵は、例えば18話の朔くんが肘ついて詩を描いてるページなど、1枚の絵画のようで、ずっと眺めていられるくらい素敵です。そういう1枚絵的なシーンを描く際に何か参考にされているものとか、影響を受けたものはありますか?

 

いや~ありがとうございます! ただ、参考にしているものとかは無くって。私はわりと絵にコンプレックスがあるので、例えば今言われたような1枚絵というものが苦手なほうなので。

 

ただ、今回の話では、そういうのを描かなきゃいけないというか…この場面には、「そうじゃなきゃいけないよなあ」というような、自分の中の要請があって。毎日そういうところは苦心苦心ですけれども、あんまり絵の表現に関して、何かを参考にということは無いですね。

 

 

―またまた細かい部分の話になるのですが、白さんが朔くんの詩に関して、作中で「これはいいね」とはっきりと褒めているのが全部『月に吠える』に収録されている作品だと思ったのですが、これは意図的なものですか?

 

それは最初の頃の手紙のやり取りで、朔太郎が、詩のデビューにあたって自分の詩の何が良くて何が悪いかっていう取捨選択を、「白秋が本に載せるか載せないか」でわかっていたというか。(白秋が)ボツにするかしないかで。本に載っている=良い詩なんだな、と。

 

あまり、逐一(白秋が朔太郎の詩を)添削とかはしていなかったみたいなんですけれども。そうやって朔太郎自身が(自分の詩の良し悪しを)掴んでいったという、その指標のハードルとして白秋がいた、ということを表している……という感じですね。

 

 

―『月に吠える』に収録された作品が、白秋が良いと認めるハードルを超えたものということの表れ、ということですね。

 

そうですね、朔太郎が「ああ、これが『良い』ということなんだ」と掴んでいって、完成形に持っていけたという。逆に、『月に吠える』以降はもう(詩風を)確立しちゃっているので、人の意見は特に必要としていないわけで。

 

 

―『月に吠えらんねえ』は朔くんの詩の確立までの模索する様子と、その導き手として白さんがいる、という関係性が描かれているのですね。

 

そうですね、それはもう本当に初期のイメージですね。だから朔くんは、初期の、いわば出来損ないの詩たちのイメージなんですよね。「天才が天才になっていく過程」が面白いなというか。朔太郎さんの場合は、それがわりと資料として残ってくれているので、そこがすごく好きなんですよね。

 

 

―サイン会で、何人かファンの方にもお話を聞かせていただいたんですが、「どういうところが作品の魅力だと思いますか?」って聞いたら一人の方が、「朔くんのダメっぷりを見ると安心する」っておっしゃっていて(笑)。

 

(爆笑)そうなんですよね~昔の人のダメさって、本当とことんダメですからね。(種田)山頭火とか。ダメでも生きられる時代だったんですよね。結構周りが皆サポートしてくれたりして。わりと皆フランクに借金してますしね(笑)。

 

 

―石川啄木とかもそうですよね。

 

そうなんです、とくに詩歌俳句の人たちって、それだけでは食べていけない人たちばっかりですから。それでも、書くしかなかったっていう、そのダメさもいとおしいですよね。

 

デビュー作にも文学作品の要素が「ガッチガチに投げ込まれている」

 

―次は清家先生ご自身について伺いたいのですが、近代詩以外で好きな作家や作品を教えていただけますでしょうか。

 

私はよく読んでいたのは、大学時代だったのですが、西洋思想史に一番はまっていて。
ハイデガーとか。詩だと、パウル・ツェランがすごく好きで。

 

『まじめな時間』に収録されているデビュー作の『孤陋』という作品があるのですが、それはもう(哲学に)ハマっている当時に描いていたので、わりともうその辺の(要素)がガッチガチに投げ込まれている感じで。だから、いま見て意味が分かんないところもあるんですよ(笑)。当時確かこれ意味あったのになあ~って。

 

 

―文学作品からインスピレーションを受けるということが多いのでしょうか。

 

多分、デビュー作の時点ですでにやっていたので。それがまさにこの朔太郎とかにハマっている時代に描いていたものなので。あの当時思いついていたら、あんな感じでやっていたかもしれないですね。

 

 

―ということは、作品を見ると、清家先生のハマっているものがわかる…といってもよいでしょうか。

 

そうですね、でも朔太郎とかは昔の記憶が出てきちゃったので、いわば今もう1回ハマり直している、という感覚ですね。読みなおして。(取材・文 ささ山もも子)

その7に続く