傍観者では済ませてくれない 読者の日常世界へ怪異を侵食させる怪談作家・梨さん

ネット怪談との出会いが創作のルーツに

 

――梨さんが怪談を書くに至った経緯は何ですか?

 

子どものころに、インターネットで「八尺様」を読んだのがきっかけです。当時、怪談といえば、「トイレの花子さん」くらいしか知らなかったので、ネット怪談があまりにも衝撃的で、どんどんのめり込んでいきました。それで、2ちゃんねるの洒落怖スレなどに、「自分もちょっと書いてみようかな」と思ったんです。

※八尺様…2ちゃんねるのオカルト板で紹介された怪談。名前の通り八尺(およそ240cm)の背丈を持つ女の姿をしており、「ぽぽぽぽ/ぼぼぼぼ」と男のような声で奇妙な笑い方をする。彼女に魅入られた男性は、取り憑かれて死に至る。

※洒落怖…2ちゃんねるのオカルト板スレッド「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみないか?」の略称。

 

 

――怪談作家としての「あるある」を教えてください。

 

例えば市街地を歩いていて、オフィスビルがあって、窓のカーテンが一つだけ閉まっていたとするじゃないですか。そしたら、「これは何かあるんじゃないか」「怪談にできないかな」など日常的に考えています。友達と出かけたときに、こういう話ばかりしてしまって、「やめて」って言われたこともありますね(笑)。

 

最近もコンビニで、コピー機から印刷物が出てくるのを待っていたときに、「この設定は怪談にできるのでは?」と思い、『瘤告(※公開終了)』という作品を書きました。私は読者の方に、「自分の身にも起こるのでは」と思ってほしいので、日常の何気ない物事を怪談の導入にすることで、話にのめり込みやすくしています。

 

 

――日常と怪談を結びつける発想力や創作力は、どのように養っているのでしょう?

 

怪談仲間の集まりでは、「このキーワードを必ず入れて怪談をつくりましょう」みたいなことをゲーム感覚でしたりします。ときどき「パイン飴」みたいな、「そんなの怪談にできるわけないだろ」ってものをお題にする人もいますけど、書く練習にはなりますね(笑)。

 

私が活動しているSCP財団という創作のプラットフォームでも、メンバーで大喜利みたいに「ここにある信号機をどんな記事にしますか?」など、飽きもせずやっています。

 

※SCP財団…英語圏の匿名掲示板に端を発する創作プラットフォーム。「SCP(secure, contain, protect/確保、収容、保護)」と呼ばれる、超常的な物体や現象の隔離を目的とした架空の組織で、サイトではそれらの異常物体の報告書として、様々な創作物を読むことができる。

 

 

――ちなみにこうしてZoomで話しているときも、このシチュエーションがどう怪談になるか、考えたりしているのですか?(※このインタビューはオンラインで行いました)

 

そうですね。例えば、衛藤さん(取材者、20代女性)の声が急に40代の男性の声になって、ものすごい笑い声を出してきたらどうしよう、なんて思ったりします(笑)。職業病みたいなものですね。

 

「いいね!」と思ってもらえる怪談をいかにつくるか

 

――根っから怪談をつくるのが好きだと伝わってきます。私はホラーコンテンツを見ると、恐怖に苛まれるだけで完結してしまうのですが、梨さんの場合は創作意欲にもなっているのでしょうか?

 

私はホラー映画を見るとき、部屋を暗くして、ヘッドフォンをして、半開きにしたドアを背にします 。冒頭に「この映像の視聴中に、あなたの体に不調をきたすかも知れません」というテロップが入ると、「よっしゃ、ばっちこい!」って感じます。できる限り自分が恐怖できる環境をお膳立てして、ホラーコンテンツに臨んでいますね。

 

ただ、つくる側になってから、純粋に楽しめなくなってしまったんです。「怖い」というより「何でこれ思いつかなかったんだろう」って考えてしまうようになったので。まあ、それも一種の楽しみ方ではあるんですけど(笑)。

 

 

――改めて、梨さんにとって怪談の魅力とは何なのでしょう?

 

怖い体験を話そうとしている人がいるとします。その人は何を怖いと思ったのか、体験した出来事のどの部分を切り取って、どういう風に伝えるのか。そういった個人の価値観や内面世界が垣間見えるのが、私にとっての怪談の魅力です。

 

私は「幽霊は本当に存在するのか」よりも、「この人はなぜ幽霊が存在すると思うのか」「なぜそれを幽霊と認識したのか」などに興味があって。怪談は、そうした部分を探るうえでとてもよい装置だと思っています。

 

 

――怪談は書き手がたくさんいて、作品も膨大にあります。そうしたなかで、新しい怪談の題材を考えていかなければならない、創作の難しさは感じますか?

 

そもそも怪談が好きな人って、目が肥えているんですよね。「生き人形」「八尺様」などの有名な話は、当然知っています。また今は、TwitterなどのSNSで怖い話が出回るようにもなって、怪談の裾野もすごく広がっています。

 

そういった状況で、私が影響を受けた現代ホラー作家の三津田信三さん、京極夏彦さんなど偉大な先人の方々にどう追いつくか、どう越えるか、本当に難しいです。

 

あと怪談は、人が嫌がるコンテンツなので、「うわぁ……これ怖い、嫌だ。だからこそいいね!」とはなかなかならないんですよ。「怖い、嫌だ」から「いいね!」と思ってもらえる作品づくりをいかにするか、考えていかないといけません。

 

 

――今回のお話を踏まえて、また梨さんの作品を読ませていただこうと思います、ありがとうございました。

 

 

取材を終えて

 

一語一句計算されて綴られた文章で、現実味のある物語が淡々と進む。日常的な何かが仕掛けとして組み込まれ、読者は気づけば物語のなかに足を踏み入れている。没入感や不快な余韻を残す魅力的な作品が、どのように生まれているのか納得がいった。きっと、私はまた梨さんの作品を読んでしまうのだろう。

 

今年の夏は、ただの傍観者ではなく、怪談を日常のなかで体験してみてはいかがだろうか。(取材・文 衛藤佳子)

 

 

梨さんの作品・SNSアカウント

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SCP財団:http://scp-jp.wikidot.com/author:pear-qu

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