【1/3】尊大を持たない又吉直樹と、彼の文壇バー巡礼の旅  『火花』では芸人の先輩・後輩の独特な関係性を描きたかった

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出版業界を揺るがした、どころの騒ぎではなかった。又吉直樹が発表した小説『火花』は、炎のごとく燃え上がり、たちまち社会現象を巻き起こした。『火花』が掲載された文学界は、1933年の創刊以来初の増刷。その後、書籍化された『火花』は、村上春樹級の初版15万部と、全てが異例尽くしだった。

 

芸能界で随一の読書家として知られる又吉直樹だが、読書家だからといって良い作品を書けるわけではない。当初は世間の期待も、タレント本のそれを上回るものではなかったのではないか。

 

しかし、『火花』は本物だった。多くの作家や文芸評論家を唸らせ、三島賞候補となり、芥川賞も夢ではないとささやかれている。又吉直樹は間違いなく、単なる読書好きや、文章の上手なタレントを超越した存在だ。

 

まだまだ計り知れない作家・又吉直樹の素顔を知るにはどうしたらいいのだろう。

 

そう考えたとき、ふと思いついた。作家にとって聖地であり、住処であり、憩いの場である文壇バーを巡ることで、少しでも本音を引き出せるのではないか。どんな媒体でも明かしていない、意外なエピソードが聞けるのではないか、と。そんな思惑で、巡礼の旅は始まった。

 

1軒目『風紋』

 

4月某日、20時30分。又吉直樹は、少々疲れた様子で吉本興業東京本社のロビーに姿を現した。直前まで取材を受けていたのだそう。

 

ただでさえ売れっ子の彼が、「火花」の大ヒットによって、取材数もたちまち増加。殺人的なスケジュールに追い込まれていることは明らかだった。しかも、外はあいにくの雨。巡礼の旅としては嫌な出だしだった。

 

しかし、又吉さんの気持ちを高揚させる自信はあった。なぜなら、一軒目に向かったのは、創業1961年、新宿でも最古の歴史を持つ文壇バー・風紋だからだ。彼が敬愛する太宰治の「メリイクリスマス」のモデルになった、林聖子ママが経営するお店である。中上健次や坂口安吾、檀一雄、色川武大といった、錚々たる作家が通っていたことでも知られている。

 

入店してまずは乾杯。飲みながらインタビューを開始した。

 

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