今、ショートショート(以下SS)がアツい。その背景には、SSを普及させるべく、アクティブに活動している若き作家の存在がある。『ノックの音が』『ボッコちゃん』などで知られる星新一さん(1926~1997年)の孫弟子・田丸雅智さんだ。
作品の執筆に加え、SS講座やコンテストを開催。昨年12月には、『たった40分で誰でも必ず小説が書ける 超ショートショート講座』を刊行した。
なぜ今、SSなのか? その魅力や思いについて、田丸さんに聞いた。
アイディアは違和感から生まれる。
―SSとの出会いを教えて頂けますか。
小学校2年生のとき、教科書で星新一さんの『おみやげ』を読んだのが最初です。当時はその一作を読んだだけだったのですが、小学校6年生になったとき、全然読書をしない僕を見かねて、母親が「読んだことあるでしょ」と星新一さんの本を渡してくれて。それからどっぷりハマりましたね。
― 長編とは違ったSSの魅力は何でしょう。
長編とSSって、陸上に例えると、長距離と短距離のようなもの。SSは、5分で全然違う世界に連れていってくれますよね。その“瞬間の技”が一番の魅力だと思っています。
― デビューに至るまでの経緯を教えて下さい。
いろんな方々が推薦して下さって「桜」という作品が作家の井上雅彦さんの目に留り、それが2011年に『物語のルミナリエ』(光文社文庫)に掲載されデビューしました。
― 作品を書く時、アイディアを閃く力は普段どうやって蓄えていますか。
違和感に気づいたら、常にメモをすることですね。ありふれた日常の中の、ちょっとした違和感に目を向けることが大切です。慣れてくると、自分の琴線に触れるのはどんなことなのか分かるようになり、作品にも使えるようになります。
故郷を離れたことで書けた「海酒」
― 田丸さんは愛媛県の港町で育ったとのことですが、そこで育った環境は、今の創作にどういう影響を与えていると思いますか。
『海色の壜』という本は、港町で育った影響を非常に受けています。僕の作品はノスタルジックとか、昭和っぽいと言われることが多いのですが、それは街や海が退廃していく様子を見ながら育ったからだと思います。そこで、街や人は老いるものなんだということを実感できましたし、創作の基礎となっている感性も培われました。
―現在は東京にお住まいとのことですが、故郷と東京にいる時で、創作の内容は変わってくると思いますか。その場合、どのような違いが出てきますか。
地元での思い出を客観的に見て作品にできたのは、東京に関わらず、外へ出たからでしょうね。同じ場所にずっといると、街の変化に気づきにくくなりますよね。帰省して車で親に色々連れてってもらって、「あれ変わったね」というと、「え、そう?」みたいに言われるんです。微妙な変化を変化と感じづらいというか。賞を頂いた「海酒」(『海色の壜』に収録)という作品は、愛媛を離れたからこそ書けたんだと思います。