【エピソード4】壁一面に本棚のあるゲストハウス 旅人たちそれぞれの物語

子どものころから、旅に出るときは本を一冊カバンに忍ばせていた。旅と本はいつもセットだ。25歳になった私は、思い立って仕事を辞めて、壁一面の本棚があるゲストハウスで働くことになった。

 

長野市にある、カフェバーを併設した、町にひらかれたゲストハウスPise(ピセ)。ここには毎日、いろんな人が集まってくる。旅人、移住者、学生、傷心の人、現実逃避がしたい人、地元の人々。人が混ざり合うこの場所では、日々ドラマが生まれる。

私にとっては「いつもの場所」、訪れる人にとっては「非日常」なこの場所で生まれる、人と本との出会いを綴っていこうと思う。

 

目次

私の町の本屋さん

 

 

ここを旅先にあなたがやってくる 見せたいひかりを考えて待つ

『音楽(著:岡野大嗣)』より

 

ピセから歩いて3分のところに本屋さんができた。朝陽館。ちょうようかん、と読むらしい。三年前に一度閉店した老舗の本屋さんが、ブックカフェとしてリニューアルオープンしたのだ。私がピセで働き始める少し前、ピセの本棚の選書をしてくれた女の子が働いている。折れてしまわないかと心配になる華奢な手足に白い肌。たまにピセに遊びに来ては、隅っこで丸まって本を読んでいる。

 

「明日も、明後日も、好きなことに実直に生きましょう」

 

転職するか悩んでいた私の目に、彼女がInstagramに投稿した言葉が飛び込んできたのはかれこれ1年半前の話だ。私はその一言に背中を押され、えいやっとピセの求人に履歴書を送ったのだった。私が長野に来るきっかけになった彼女が、「天職に転職しました」とにこにこしていて、私までうれしく思う。

オープン直後、わくわくしながら朝陽館に足を運んだ。温かくて明るい店内。どこか私の実家に似ている一面の木の本棚。入ってすぐの棚に、取り寄せようと思っていた本があった。あ、と声が出る。店内を歩いて回ると、読みたかった本があちらこちらにあった。一緒に行った友人の腕をつかんで「どうしよう、全部欲しい!」とちょっと大きい声を出してしまった。

 

先日、予約購入していた本が届いた。岡野大嗣さんの歌集『音楽』。せっかくだから朝陽館で読もうと思って、丸一日お休みの日まで寝かせた。本と財布だけカバンに入れて家を出て、朝陽館へ向かう。落ち着いて本が読めそうなテーブルを選び、カフェラテを注文する。金平糖がついてきた。金平糖なんて食べるのはいつぶりだろう、小さい星のかたち。口に入れて、舌で転がしながらゆっくりとページをめくる。

 

斜め向かいのテーブルに座っていたおばさまたちが、「ねぇみて、こんなかわいい本があったの! どうしよう〜」とはしゃいでいるのが聞こえる。本を読むための休日、なんて贅沢なんだろう。

 

元気がないな、というとき、ふらふらと本屋に行く。読みたい! と思える本を見つけると、あぁ心がまだ元気だ、と思う。本を買うというのは、これを読み切るまで生き延びよう、という自分との明るい小さな約束だと思う。大げさでなく。

 

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