アイディアを出し合って空想を広げる
「『ゴールデン立ち飲み』に対して、こんな良いことがあって、こんな悪いことがあるなど、皆さんで話し合ってみて下さい。どんな変なことを言っても大丈夫ですよ」と田丸さんにアドバイスされ、ディスカッションが始まります。
C:「ゴールデン立ち飲み」だったら、店の中が全部金色とか?
A:漫画の『コブラ』に出てきたんですけど、金星の女性はみんな美人でスレンダー。金星の立ち飲み屋というのも話が広がって面白いかも。
C:なるほど。金星にあって美人しかいない。
B:金星ってどこにあるんだろう。すごく明るい星?
C:そうそう、月の隣にある明るい星。
B:ここに、皆何しに行くの?美人がいるから行くってこと?
C:ゴールドガールに会いにいって、楽しく飲めて。
D:立ち飲み屋は、噂上の存在でしかない。空間に金色の線があって、ふとした時に見える。フラッと行くと、いつもはないところにバーの看板があるとか。
B:なるほど。
B:どうやって帰るんですかね?
C:帰るときは月から車が迎えにきて、一緒に帰る。
B:…夢落ち。泥酔落ち?
…などなど、皆さんがアイディアを出し合っている中、店長もそつなくこなした田丸さん。シェイカーを振ってオリジナルカクテルの「海酒」も作っていました。
数分ディスカッションし、アイディアが出尽くしたらストップ。その段階で個人ワークに戻り、いよいよSS創作を始めます。つまり、皆さんで出したアイディアを取捨選択して、同じ「ゴールデン立ち飲み」というタイトルのSSを各々で作るのです。
皆さん、アイディアが色々と出たようで、執筆作業に入ります。田丸さんの「では発表してもらいましょう」の呼びかけに、それぞれが自分の考えたストーリーを発表しました。発表して下さった中から一つ、ご紹介します。
「ゴールデン立ち飲み」のSSをお披露目!
『ゴールデン立ち飲み』
気がつくと僕は金星にいた。手が届くほど月が近い。今日は満月だ。そうだ、今日は金曜日だから、金星のゴールデン街に飲みにきたんだ。
僕のお気に入りは、ゴールドガールのいる立ち飲み店。どの子も美しく気が利いて、僕の心を美しくキラキラ金色に輝かせる。
ただ一つ、その店には決まりがある。ゴールデン立ち飲みを唱っているだけに、決して座ってはいけないルールがある。
ダメだと言われると試してみたくなる。ある日僕は思い切って座ってみた。するとどうだろう。腰を降ろした場所から、ドンドン体が硬くなり、全身が金になってしまった。
どんどん体が重くなり金になり、そして気持ちも重くなり、気づくと僕は金星ではなく新宿ゴールデン街にいた。目の前には一枚の紙切れが置かれてある。
「金」という文字が目に入る。視線を、「金」と書かれているその先を追うと、「金40万円」という請求書が置かれていた。
*
「短時間にもかかわらず、ストーリーがちゃんとまとまっています!」と田丸さんも皆さんの作品を聞いて感心のご様子。「ゴールデン立ち飲み」という一つのキーワードから発想が広がり、最終的には参加者ごとにまったく違うストーリーに。同じテーマでも、こんなに作品の内容が変わるんだ! と聞いている側も驚きでした。
ワークショップを終えて
初めて参加した人からは、「皆さんと一緒だとアイディアが沢山出ますね。自分の中で収集がつかなくなってしまいました(笑)。もう少し時間をかければ、作品がうまくまとまると思います」「初めて作りましたが、とても新鮮な経験ができました」などの感想がありました!
田丸さんはバーカウンターに立ったのも、シェイカーを振ったのも初めてとのこと。「普段できないことなので、とても良い経験になりましたね。バーでワークショップを開くことなんて滅多にないので、おかげでアイディアがたくさん浮かびました。これから何本も作品を書けそうです」と、一日店長イベントに満足して下さったようです。
田丸さん、ありがとうございました!
田丸さんの新刊『たった40分で誰でも必ず小説が書ける 超ショートショート講座』は好評発売中です。本の付録にあるワークシートを使って、皆さんも作品を創り出す楽しみを味わってみてはいかがでしょうか!(取材・文 平賀たえ)