【4/4】朔太郎さんに謝りたい!~勝手に名前を使ってごめんなさい~

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萩原朔美さんが教授を務める多摩美術大学

 

※前回の記事はこちら

 

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 文章は誰でも書ける。「私は書けない」って書けばいいんだから

 

―大学では、物書きを志望する生徒たちに、どんなことを伝えているのでしょう?

 

生徒には、「あんたたちは文章を書けないと思ってるけど、誰でも書けるよ」って。うちは夜間だから、コンプレックスを持ってる人が多い。誰でも入れるんだからさ。そんなコンプレックスは、自分の作品を描くことによって越えられる。だから書いてごらん、と。一冊書いたら本当に世間の見る目が変わるんだから。一日一枚書けば、一年で365枚で一冊になる、って言ってる。簡単なこと。

 

もし書けないって人がいたらね、「私は書けない」って一行書いてください。次に「なぜ書けないのだろうか。さっきから3時間も机に向かっている。外では赤ん坊の泣き声がした。じゃあラジオを聞こう。ふと時計を見るとまだ15分しか経ってない。私はようやく四行書けた……」と延々と書いてるうちに、書けるようになってくるんだよ、試しにやってごらんと。

 

 

ーそれはユニークな教え方ですね!

 

素人は机に座ったら悩んじゃう。一週間経っても座ってるだけで、一行も書けないよ、悪いけど。だったら「一行も書けないんです」って書きなさいよ、最初に。どんどんリラックスして、書くことがこんなに簡単だって初めて分かるから。

 

「最初の一行で決めたいので」って言う人もいるけど、あんたの頭じゃ決まらない。百冊も本を出した奴はスッと書けますよ。だけど一冊も出してない奴が、一行で決めようなんて馬鹿なことは止めなさい、一生かかるよ、ってね。

 

 

―確かに、難しく考えすぎると書けなくなってしまいますよね。

 

もう一つね、例えば山々、とか花々っていうのは書いちゃいけない、っていうのは三好達治が言ってるんだよ。なぜだか分かる? 文章の中に「山々は~」ってあったら、それは富士山なのか箱根山なのか分からんないでしょ? 北アルプスですか? 槍ヶ岳ですか?

 

「カステラを食べた」じゃダメ。福砂屋ですか、虎屋ですか? 全部具体的に書けよ、文章ってそういうもんだと。花々がキレイ? 何言ってるんだよお前、チューリップと桜どっちなんだよ、とそういう注意はします。

 

 

午後のノートのように……格好いいじゃない!

 

ーほかにも、文章を磨くためのユニークな授業を行っているんですか?

 

「雪のように白い」って書いたらお前終わりだぜ、ってことは言います。授業でね、じゃあ順番に、「何々のように白い」なのか言ってみなさいって言うの。「看護師さんの服のように白い」「老人の白髪のように白い」「白壁のように白い」「Yシャツのように白い」とかさ、ずっと言うわけよ。100ぐらい言って、「……っていうのは止めような、みっともないから。誰でも言ってんだから」ってね。

 

3年くらい前にね、授業で帽子かぶってマスクしてさ、下向いてる男がいたのよ。こいつは当てても言えないよ、嫌な奴だなあって思ったら、「午後のノートのように白い」って言ったのよ。格好いいじゃない、アンニュイな感じで!

 

くだらないことを黒板に書いてるわけよ、ハゲの親父の先生がさ。あーだこーだいって、つまらない授業だなって、生徒はノートには一行も何も書かないわけよ。あーって窓を見て、夏休み早く来ないかなーなんて思ってさ。そういう情景がお前の一言で浮かんできていい、って褒めちゃって、「悪いけど俺に使わせてくれる?」って言ったこともあった。

 

 

よき競争相手になろうよ、というのがメッセージだね

 

―夢を実現するにはチャンスを捕まえることも大事かと思いますが、そのはコツはありますか?

 

チャンスを捕まえるのも才能の一部で、努力ではないね。チャンスを与えられるのも才能なんだよね。運だよね、運も才能のうち、残念ながら。時代っていうのもある、どうにもならない。そういうのが受け入れられる時代背景ってのがあるからね。

 

芥川賞だって、事故みたいに取った奴いるじゃない。震災の後だからこれだよ、すごく嫌な事件があったから、あいつができたんだよってあるじゃない。それも才能のうちだから仕方ない。

 

 

―チャンスを捕まえられずにいると、なかなか結果が出なくて、不安になってしまうことがあるかと思います。朔美さんは自分が書きたいことと世間の評価との間で、迷ったりしたことはありませんか?

 

俺はそういうのは全く分からないなあ。勝手に自分のスタイルでやってるだけで、コンクールにも何にも出す気もない。元々賞を獲ろうと思ってないから、評価は全然気にならない。だって売れないんだもん。元々評価ないんだから、嫌になっちゃう。周りの目をはじめから対象としてないからじゃないかね。

 

寺山(修二)さんはうらやましいよねえ。俺なんか元々ファンがいないし、本が売れないんだから。情けないんだよ、あなた。評価というより売れる本を一生に一回書いてみたいね。それだけだね。今の希望は、売れたいよ。ざまーみろ、10万部売れたよとか、そういう目に遭いたいよ。

 

 

―ありがとうございます(笑)。最後に若手の物書きやクリエイターへメッセージをお願いします

 

よき競争相手になろうよ、ってメッセージだね。生徒の卒業式のときにも言うんだ。卒業したら悪いけどライバルだから、闘い合うからって。

 

昔さ、東野芳明さんっていう美術評論家が、うち(多摩美術大学)で美術評論のコースを担当していたんだけど、「何でおれが同業者で競争相手を育てなきゃいけないんだ。お前らが出たら潰してやるって」言ってたもん(笑)。だから、よきライバルとして生きて行こうぜ!

 

ーお忙しい中、こんな企画にお付き合いいただき、しかも貴重なお話をたくさん聞かせていただいて、本当にありがとうございました!

 

取材・文 コエヌマカズユキ
photo by twinkle