お坊さんブームが来ている。月9ドラマでは、山下智久が僧侶の星川高嶺を演じる『5→9(5時から9時まで)~私に恋したお坊さん~』が放映中。『仮面ライダーゴースト』の主人公・天空寺タケルは、お寺の跡取りという設定。バラエティでも『ぶっちゃけ寺』という、お坊さんたちが出演する番組が人気だ。
かと思えば、お坊さんと気軽に話すことができるバーがある。新宿区・四ツ谷にある『坊主バー(VOWZ BAR)』だ。スタッフは全員が現役のお坊さん。店主の藤岡善信さんは、浄土真宗本願寺派僧侶であり、著書に『一行念仏で幸せになる(宝島社)』があるほか、『美坊主図鑑~お寺に行こう、お坊さんを愛でよ(廣済堂出版)』にも登場するイケメン坊主だ。
お坊さんがバーなんて、かなり攻めている気がする。しかし、さらに驚くことが! 今年の10月から、毎週木曜日限定で、坊主バーの上のフロアに“牧師バー”がオープンしたという。
坊主と牧師。それは例えるなら水と油、白と黒、太宰治と三島由紀夫、巨人ファンと阪神ファン、リア充とオタクのように相いれないのでは? 仲良くやっているの? 宗教戦争は起きていないの? これは潜入して確かめるしかない。
どうせなら、さらにカオスにするために、こんなゲストにオファーしてみた。
吉本興業所属、お笑いコンビ・デスペラードのエマミ・シュン・サラミさんだ。イラン人でイスラム教徒。『イラン人は面白すぎる! (光文社新書)』の著者でもある。中東情勢をイジった過激なネタが多いアングラ芸人。そんな彼を連れて行って大丈夫なのか?
サラミ「(キリスト教・仏教・イスラム教の)3つが集まったら戦争しか起きませんからね!」
このように、過激水準は非常に高い。これは記事として掲載出来るのか!? 取材班は色んな意味でドキドキしながら店内へ入っていった。
まずは牧師バーへ
隠れ家のような建物の階段を上がっていくと、3階にあるのが牧師バーだ。扉を開くと、185センチ、100キロはあろうかという強面の男性が出迎えてくれた。
男「いらっしゃいませ」
……ん? いらっしゃいませ? しかもよく見ると、胸に十字架を下げている。まさか、、、そう、こちらの男性は牧師バーのマスター、中村透さんだった。
中村牧師「サラミさん、待ってましたよ」
カウンター席に着いたサラミさんに、中村牧師は笑顔でお通しを出す。そのお皿にはサラミが。イスラム教徒は豚が食べられないというのに……
しかしサラミさんは少しも動じず、添えられたスティックチーズを「どうせなら十字架の形で出してほしかった」とやり返す。牧師さんも居合わせたお客さんたちも爆笑し、一気に和やかなムードに。
中村牧師「飲み物は何にしましょう。これがメニューです」
牧師バーのメニューはこのような感じ。オリジナルカクテルには、キリスト教にちなんだ名前がつけられており、サラミさんも興味津々だ。迷った末に、1番人気の「原罪」をチョイス。
と、ここで疑問が。
編集部「サラミさん、飲酒は大丈夫なんでしょうか? イスラム教はお酒がダメなのでは?」
サラミ「大丈夫ですよ。記事の趣旨に反するなら飲みませんが」
編集部「うちは大丈夫ですが、その、お酒を飲んで、サラミさんが炎上したら……」
サラミ「大丈夫ですよ! 中東は勝手に炎上してますから(笑)」
と、入店5分でお得意のギリギリトークを繰り出し、「(芸風的に)テレビ? 出られるわけないじゃないっすかー!」と明るく笑うサラミさん。地上波に固執しないそのスタンス。なんて潔いのだろう。
ちなみにイスラム教は、基本的に飲酒が禁止されているが、お祝いの席で飲むことは許されているという。またサラミさん曰く、多くのイラン人は、渡航先では普通にお酒を飲んでいるのだそう。い、意外と自由なのですね……
ここでサラミさんは、中村牧師に話しかける。
サラミ「何で牧師になったんですか?」
中村牧師「初めは牧師になる気はなかったんです。宗教を信じるやつなんてバカだと思ってました。けど、いろいろな出来事が重なって、神様に守られてるんだなと」
牧師さんの口から「宗教を信じるやつなんてバカ」という言葉が飛び出すとは。が、ここでサラミさんも、「実は僕も、元々はイスラム教に対して疑問を持っていたんです」と明かす。
サラミ「小学生のとき、クラスであんまり馴染めていなかったんですよ。先生は『正しい行いをしていれば全員天国に行ける』なんて言うけど、『このままクラス全員で天国行ったら、俺は天国でも馴染めねえじゃん!』って。子どもはいわば真っ白なキャンバスの状態。そこに一つの教えを上から押し付けることに違和感がありました」
イラン在住時のエピソードを交え、子どもにも宗教を選ぶ権利を与えたい、という自身の考えに、中村牧師も取材班も興味深く聞き入る。
ちなみに中村牧師はイランに行ったことがあるそうで、サラミさんとの現地トークに花が咲き、すっかり意気投合した模様。恐れていた宗教戦争にはならずに済んだようだ、やれやれ。