文庫本をハードカバーに―製本の過程
1.文庫本のカバーを外し、表紙を本体から剥がす。表紙の題名部分を切り抜いておく(表紙の題名部分は完成後の表紙に貼りつけるため)。
2.ホットメルト(熱で融かして接着させる接着剤のこと。本がバラけないように本の背に接着してある白い糊の塊)を剥がす
3.見返し(本と表紙を合体させるために表紙の内側に貼る紙のこと)を本のサイズに切る
4.化粧断ち(印刷物や本の中味を仕上げ寸法どおりに断裁すること)
5.耳だしをする
耳だしとは、本の中身を万力などで締め付けたときにはみ出した部分をハンマーで整えることを言う。表紙と接着しやすくすることで本の開きを良くし、本の形を整えるための重要な作業だ。
6.寒冷紗(かんれいしゃ)(固く糊付けした綿等)と栞を本につける。花(はな)布(ぎれ)(中身の背の上下の両端に貼り付けた飾り布)をつけて、本の背に張り付ける(1日置く)
たわしで叩いている赤い紙は「背貼り紙」。これをつけることで本の背を補強して、読んでいる最中に本が割れないようにする
7.ボール紙と表紙を切る
8.表紙に糊付けし、ボール紙をくるむ(1日置く)
9.表紙と本文をボンドで貼る
10.竹籤で溝入れ( 1日置く)
11.見返しに糊を入れる
12.元の表紙を貼り、1日伸す (1日置く)
13.汚れ・曲がり・ゆがみチェック
14.完成後、納品
以上の工程を経て一つの本に仕上げる製本士という仕事。現在、製本工房インキュナブラでは注文から納品まで約三週間かけて製作している。
「お客様との打ち合わせや、材料の取り寄せ、新たに作る道具などの用意で時間がかかってしまいますが、時間をかけた分、満足していただけるとうれしいですね」と、高倉さんはオーダーメイドならではの製本の楽しさを語ってくれた。
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出版業界の縮小によって失われつつあるという製本士の技術。本を少しでも長く、美しく保存したいという顧客のニーズがあるかぎり、形を変えながら今に生き続けることになるだろう。 (取材・文 四畳半しけこ)