【前編】人への興味と好奇心 「面白いことをとことん書く」記者がタクシーに着目した理由

タクシーを日常的に使う人も、使わない人もいるだろう。それでも、誰もが一度は乗ったことがあるはずだ。そして、ドライバーと何かしら言葉を交わしていると思う。心地良いテンポの会話があれば、必要最低限の簡潔なやり取りや、辟易してしまうマシンガントークなど、ドライバーによってさまざま。タクシーと、ハンドルを握る人々の個性は切っても切り離せない。

 

そんなタクシードライバーたちの素顔、そしてタクシー業界を徹底取材した『コロナ禍を生き抜くタクシー業界サバイバル』。著者の栗田シメイさんに、知っているようで知らないタクシーのあれこれを聞いた。

 

栗田シメイ

ノンフィクションライター。1987年、兵庫県生まれ。広告代理店勤務、ノンフィクション作家への師事、週刊誌記者などを経てフリーランスに。スポーツや政治、経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。

 

目次

コロナ、ドライバーの高齢化……業界が直面する課題

 

――この本のタイトルには「タクシー業界」とありますが、ドライバーという「人」がテーマであり、タクシーの魅力も「ドライバーの工夫や個性」であると感じました。栗田さんにとって、どんなタクシードライバーが魅力的ですか。

 

客の立場として魅力的だと思うのは、こちらの様子を見て、空気を読んで接してくれるドライバーです。地方に行ったときには地元の名物や名産について聞きたい、酔っぱらって眠いときは話しかけられたくないとか、そのときによって求めるものは違いますよね。

 

タクシーの車内は密閉されていて、こちらが一人だったらドライバーと1対1なので、嫌でも逃げられない(苦笑)。実際、バブル期を引きずったような傲慢な高齢ドライバーに、不快な思いをしたこともありますが、8割以上のドライバーは真摯に対応してくれます。あるドライバーは、何時であろうと電話で居場所を伝えると、毎回ほぼ時間通りに来てくれて、本当に助かりました。

 

 

――バブル期がタクシーの最盛期で、このころから走っているドライバーが現在のボリュームゾーンに当たります。平均年齢は60代ですが、高齢化が進んでいる背景を教えてください。

 

特に地方では高齢化が顕著で、都市部に比べて人材が流動せず、一度ドライバーになったら辞めずに続けている人が多いことが理由です。

 

一方、都市部では、ドライバーを生涯続ける仕事だと考えている人が少なく、入れ替わりが激しい。この本でも、タクシー運転手をしながら弁護士になった人を紹介しましたが、ほかに何かやりたいことがあり、あくまで一時的な仕事としてドライバーをしている人も多いです。いずれにせよ、地方でも都市部でも高齢化は進んでおり、人材不足が懸念されています。

 

 

――人材の確保が急務である一方、コロナ禍で収入が激減したドライバーが多くいるように、雇用環境が軽視されがちで、働き続けにくい状況もあるように感じました。

 

タクシー業界は労働集約型産業です。タクシー1台のコストで見ると、人件費が約65%と、ほかの業界にはない割合です。しかも歩合の割合が高いので、売上が増えても減っても、タクシー会社は影響が出づらい構造です。

 

よって、今回のコロナで、ドライバーの給料は下がっても、会社は現場のドライバーたちほど致命的な影響を受けていない面もある。都内では雇い主にも「ドライバーが辞めるのは仕方がない」という感覚があるため、人材が軽視されてしまうこともあるかもしれません。

 

 

――コロナ禍で雇用調整助成金を活用し、ドライバーを守っている会社もあります。先のことを見据えると、高齢化による人手不足も深刻です。コロナ禍が収束した後の、タクシー業界の雇用はどのような状況になるのでしょうか。

 

コロナ禍でタクシー会社が倒産したり、運転手を辞めたりする人も多いですが、採用が増えている現状もあります。不景気のときにタクシー業界では、仕事を失った異業種の人を多く採ろうとする動きがあるためです。コロナが明けて、タクシーの利用者がまた増える未来を見据えて、来年の4月は1,000人採る会社もありました。

 

ただしそういった会社の考えとは違い、コロナ禍における現場のドライバーは、いくら走っても売り上げが出ないので、心が折れかけているのが実情です。

 

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