【前編】人への興味と好奇心 「面白いことをとことん書く」記者がタクシーに着目した理由

目次

100人超のドライバーや関係者に取材

 

――タクシーを題材に執筆したきっかけを教えてください。

 

NHKのドキュメンタリー「地球タクシー」が発想の元になっています。タクシーに乗って、ドライバーの人生について話を聞き、彼ら彼女らの視点で街を見る。この発想で連載記事を書き始め、一冊の本にまとめました。普段は政治、事件、スポーツについて取材することが多く、タクシー業界という自分にとって新しい分野で書いてみたいと思ったのも理由です。

 

 

――本書を執筆するために、どれだけの時間がかかり、どれぐらいの場所を訪れましたか。

 

2020年3月から約一年かけて取材をし、1か月半ぐらいで書籍にまとめました。話を聞いたドライバーや業界関係者は、100人は軽く超えています。場所は東京など大都市がメインですが、地方に行くと必ずタクシー使っていたので、12~13ぐらいの都道府県で取材を行っています。

 

 

――本当に多様な経歴・個性のドライバーがいて興味深かったです。

 

こだわりの高級車にWi-Fiや空気清浄機を用意し、徹底したおもてなしで海外のVIPからも指名を受けるようになったドライバー、歌手を目指しながら働き、一曲歌ってほしいという乗客からのリクエストにも応える女性ドライバー、東京の街での乗客との出会いを楽しむオーストリア出身のドライバーなど、本当にさまざまな出会いがありました。

 

実名、顔出しで取材を受けていただいたドライバーの方々もいれば、名前や経歴は必ず伏せてほしいと念を押されることもありました。新型コロナウイルスの蔓延により、タクシードライバーという人種が社会的弱者となり、ストレスを抱えた人々の攻撃の矛先となったことが理由の一つだと思います。

 

 

――業界全体とドライバー個人、鳥の目と虫の目の使い分けた広範な内容がとても面白かったです。どのような取材方法をとったのでしょう。

 

客としてタクシーに乗って取材をするのと、身分を明かして真正面から取材を申し込むのと、2つのケースがありました。ただドライバーの中には、犯罪歴がある人、家庭を捨てた人などいろいろな人がいて、自分のことを話したがらない人も少なくなかった。それに、ドライバーの視点だけでは理解できないこともあるので、タクシー会社や業界団体の人にも話を聞きました。

 

また連載をしているときに、「自分を取り上げてほしい」「業界にはこういう問題がある」といった業界関係者からのタレコミがあって、自然と取材対象が広がっていきました。取材をするうちに、業界に対する愛着が出てきたので、書く範囲が自然と広がっていったというのもあります。

 

 

――これからこの本を手に取る人にメッセージをお願いします。

 

タクシー業界の実態は知られているようで知られていないので、興味を持ってもらうきっかけになったら嬉しいです。高齢化、人手不足、売り上げ減など、タクシー業界と通じる状況の業界は多いです。そういう意味でタクシー業界は、日本社会の縮図であり、誰にとっても他人事ではないと思います。(取材・文 のどか)

※後編はコチラ

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