20代に頑張ったら、30代で楽になれた
― 小規模出版社だからこそできる試みは、御社で行っていますか。
こまめにイベント開催をしています。大手だと準備の手間と採算を考えたら実行しにくいような小規模な企画も実行しやすい。読者と対面する機会を増やすことは大切ですね。最近では絵本作家の井上奈奈さんと、歌人の穂村弘さんのトークイベントを開催しました。
出版しただけだと、従来の読者の方にしか本は届きません。でも様々なジャンルの方をお呼びしてイベントをすることで、参加者の方は好きな作家以外の本も手に取って下さるようになりますね。
― 読書離れが進んでいるといわれますが、今の時代において、本の役割はどう考えていますか。
パッケージ化されて、信頼性など担保しながら情報を伝えられるのは本の良さだと思っています。でも、モノは使い方が分からないと使いようがありません。今の子どもたちは早い段階でスマホなどの電子機器には馴染んでいる反面、本に接する時間が減っている気がします。
スマホにはスマホの良さ、本には本の良さがありますが、このままではどんどん本の読み方や使い方が分からなくなってきてしまう。小さい子に、本の使い方はきちんと伝えていきたいです。
― 子どもたちに伝えていくための試みは、されていらっしゃいますか。
昨年に『ウラオモテヤマネコ』という絵本を出しましたが、これを作ったのは子どもたちへきちんとした上製本に触れてもらいたい、という願いもありました。綺麗な本にするため紙や印刷などにこだわったんです。本が好きになって、その探し方とか使い方が分かると、楽しくなってきますよね。どんどん世界が広がっていくと思います。
― ありがとうございました。最後に、読者や出版界を目指す若い方へ向けてメッセージをお願いできますでしょうか。
20代の頃って仕事をしても行き詰まるし、失敗もします。技術を蓄積させている時は、楽しいことばかりではありません。でも経験がないと、できることって幅が出ませんよね。私も20代での積み重ねがあったから、自分にできることが30代になって見えてきました。
編集者として10数年の仕事の蓄積があり、それをどう活かしていくかが年齢的に段々見えてきた時期だったというのも、堀之内出版という小規模出版に挑戦できた理由の一つでした。
これは自戒も込めてですが、ひたすらガムシャラにやっても、単純作業ハイのように中途半端な達成感は得られてしまいます。何のために苦労しているのか、目的ややりたいこと自体がぶれないようには気を付けた方がよいと思っています。
そのうえで、若いうちは失敗してもいいので、やりたいことをやってみて下さい。また、多くの本を読んで下さい。経験と読書、その蓄積は後で必ず役に立つと思います。
ー小林さん、ありがとうございました。
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様々なジャンルの本を手がけられるのは、編集技術に加え、本になるコツを掴む視点を長年にわたって小林さんが培われてきたからだろう。小規模であれば、出したい本を作りやすいかもしれない。しかしその分、一人にかかる負担は大きい。そのためビジネスとして、会社を運営していく視点も欠かせない。
経営の面も考慮しつつ、テーマや装丁にこだわった本を丁寧に作り、読者に届ける堀之内出版。刊行の他、多くのイベントを手がけて、人と本との予想外の出会いをこれからも増やしていってくれるだろう。(取材・文 平賀たえ)
『堀之内出版』WEBサイト