【後編】書肆侃侃房・田島安江さんが語る半生・文学・短歌・地方出版社すなわち多くのこと

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短歌への思い

 

 

「たべおそ」に短歌を載せたいという気持ちも強かったです。若い歌人の方たちが、短歌の総合誌に載る機会は本当に限られています。「ユリイカ」や「早稲田文学」の女性号など、ときにあっと驚くものもありますが、全員がそれらの文芸誌に掲載されたわけではありません。

 

いつも若い人たちが輝く場が必要だと強く思っています。印象的だったのは、「短歌って面白いね」という声が届き始めたことです。日頃は小説を読む人たちが、短歌を読んでくれるのがうれしいです。

 

短歌では、笹井宏之さんのことが一番初めに思い浮かびます。うちでは笹井さんの3回忌の年に、歌集を2冊作らせていただきました。

 

本当は他社から出るはずだったのですが、それが打ち切りになってしまい、企画者の方から「本を出すにはどうしたらいいですか? 絶対に出さなくてはいけない本だから」と連絡をもらったんです。確認してみたところ、確かに企画は白紙に戻ったということでしたので、引き受けることを決めました。

 

すでに第一歌集の『ひとさらい』は単行本になっていましたが、それはオンデマンド上のことでISBNもついていない状態です。笹井さんはそのときもう故人でしたから、お父様に連絡して、彼の歌人として不動の地位を築くためにはぜひ第二歌集を、とお願いしました。

 

そして加藤治郎さんにお願いして、歌集づくりが急ピッチで始まりました。どうしても3回忌の命日に間に合わせたかったのです。そしてもう1つ、第二歌集を読んだ人は必ず第一歌集も読みたくなるから、第一歌集もぜひ一緒に出版させてほしいとお願いしました。

 

 

そのころ、書店では歌集は売れないと言われていました。ただ笹井さんの歌集は違いました。インターネットでも「ぜひ手にしたい」と言ってくださる方がいて、初めから2000部刷ることにしました。歌集は多くても500~800部ほどしか作らないと聞いていたので、これは大きな挑戦でした。

 

結果、2カ月で完売となり、すぐに重版しました。笹井さんのような若くてきらきらと輝くような歌を詠みたい、読みたいと思う人がこんなにいるんだ、と新しい発見もありました。その後、笹井さんの歌集出版がきっかけで、加藤治郎さんとも話し合い、もっと若い人の歌集を作ってみよう、やってみようということになります。新鋭短歌シリーズが生まれました。

 

笹井さんは生前ずっと「読みたい本リスト」をつくっていたそうです。中でも歌集は高価なものが多く、少しずつ集めては読み、集めては読みしていたようでした。それでもっと安くて、しかも読みやすい軽装版をと、ぎりぎりの1700円に設定しました。

 

印刷会社の人とも「一度に数冊作った方が少しは安くなるものなのか?」などと相談して、一度に3人が1冊ずつシリーズで出すことが決まりました。

 

シリーズ化したのは、書店に置いてもらうことを目的にしたためでもあります。歌集は1人で作って出版しても、書店ではなかなか置いてもらえない傾向があるのですが、シリーズだったり10冊近くあったりすると、注目が集まって置いてもらいやすくなるのではないか? という予測がありました。

 

シリーズ化することでオリジナリティーが薄れることを危惧する方もいるかもしれませんが、ものごとはある程度の枠があった方が考えやすく、その中でできることを模索してみることにしました。