働くことは、経済を回すこと
― 小規模出版社ならではの良さを教えて下さい。
大きい出版社だと、一冊の本を出版する時にチームで動くことは少ないと思います。しかし弊社ほどの小規模であれば、皆が一冊に関わるんです。だから完成した時は、達成感を分かち合うことができますね。本は一人で売るのではなく、皆で売るものなんです。
― 今後は、どのような本を出されていきたいですか。
たくさんありますが、一つに、これからビジネス書も出していこうと思っています。ただしスキルアップのようなものではなく、「働く」ことにフォーカスした本です。
― 理由を教えていただけますか。
平賀さんは、働くってどういうことだと思いますか?
― ……やりたいことを、やるってことですかね?
違います。働くというのは、経済を回すということです。10年以上会社を運営してきて、社会貢献って、まず第一に経済をうまく回すことだと思うようになりました。弊社が赤字になって潰れたら、取引先には迷惑かけるし、社員は路頭に迷うしで、全く正反対の結末が待っている。
社会の循環を良くすることが、住みやすい環境を作り、生きやすさに繋がります。だから経済を回すために、働くことを応援するビジネス書があってもいい。一度、躓いてしまった人でもやり直せるような、新しい視点で「働く」ことにフォーカスした本を届けたいですね。
― 出版業をされる中で、現代において本の役割は何だと思いますか。
本て、不自由でしょ?
― ……と、言いますと?
ウェブは、一人でも発信できます。でも、本は一人では作れません。出版する時は、編集、営業など、色んな人が関わりますよね。そのうち誰か一人でも、「この企画はムリですよ」と言った途端に出せなくなる。複数の人間が関わることはある意味不自由ですが、その中にこそ価値があります。
それぞれ自分の価値観を持った人たちと仕事をしますから、本にどうしても入れたい内容があっても、賛成を得られないことがありますよね。その部分は削ぎ落して編集していく必要が出てくるんです。
しかしその作業を経ると、最後は根源的な部分に近づく。皆の合意を得ていくわけですから、本の中に、共通して思っていることが残るんですよ。それは、皆の頭上にあります。本は企画と同じで、話し合ってこそ完成するものなんです。
言葉は最大の贈り物
― 現在、順調に本を刊行されていますが、一人で起業して会社を軌道に乗せていくコツを教えていただけますか。
設立して最初の1-2年は仕事を取るため、いつも朝方に帰っていました。夜の12時半ごろ、ご飯を買いに外へ出ると、サラリーマンの方とすれ違うんです。「みんな終電で帰られていいな〜」と羨んでいましたね。この頃は「もうダメかな、人生を棒に振ったかな」と思う時が何度かありました。
そこから軌道に乗せていったコツは、シンプルですが、一生懸命働くことですかね。二人分働くこと。左右社を10年続けてこられたのは、これまで教えてもらったりした過去の時間が助けてくれたおかげかもしれません。それから大切なことは、いつも謙虚でいることです。
― ありがとうございました。最後に、読者へメッセージをお願いできますでしょうか。
本からは言葉をもらえます。その中には孟子だったり、ベートーベンだったり、何百年も前の人が届けたメッセージもある。昔の人と、今の自分が繋がるという醍醐味が本にはあると思います。
言葉は最大の贈り物ですね。自分を奮起させ、なぐさめ、時に戒め、時に新しい道を指し示してくれる。逆説的ですが、時に人は、言葉のために生きようとすることがあるんです。感銘を受けた人が近くにいなくても、その人の言葉はずっと自分のそばにいてくれますからね。そんな言葉たちを編んだ本を作っていきたいです。
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「左」と「右」は、両方とも「助ける」という意味を持っている。この二文字が重なると「友」という字になる。つまり、助け合う存在が友なのだ。取引先や読者という友と共にあることを忘れないように天…「左右社」にはそういう意味が込められている。
ひとりでイチから本を創り上げる達成感を味わいたい人もいれば、皆で一冊に携わる作り方をしたい人もいるだろう。小柳さんは起業した当初、一人で作る大変さを経験したからこそ、仲間と作る今の喜びが増しているのかもしれない。
共同作業を大切にする姿勢は、左右社という名にふさわしい。今日も、小柳さんは最大の贈り物を乗せた本をみんなで編んでいる。(取材・文 平賀たえ)
『左右社』WEBサイト