雲、汗、サイダー、ラムネ…同じ言葉でも、短歌にしたら解釈も景色も十人十色だった

枯葉、落ち葉、かれっぱ……詩人・金子みすずは、1つのできごとをいろいろな言葉に置き換えて遊んでいたらしい。日本語の特徴として、ある物事がさまざまに言い換えられることが挙げられるかもしれない。

では逆はどうだろうか? 1つの言葉からさまざまな場面や気持ちが思い起こされ、多様に解釈できることの面白さは、読者のみなさんもよくご存知だろう。

そんな言葉の多面性を味わうべく、歌人・文筆家として活躍されている井上法子さんをゲストに招いて、バー「月に吠える」にて歌会(短歌を詠む集会)を行った。

井上法子さん(歌人)

1990年生まれ、福島県いわき市出身。2013年、第56回短歌研究新人賞次席。2016年、歌集『永遠でないほうの火』(書肆侃侃房)刊行。早稲田短歌会を経て現在は無所属。

今回の歌会は、1つの言葉からどんな場面が思い起こされるか鑑賞することを主な目的とし、お題を「雲」「汗」「サイダー/ラムネ」と3つ用意した。これらのお題は言葉として短歌の中に詠み込まなくても、想起できればよいものとした。

歌会の流れとして、事前に募集した9首の短歌を、お題ごとに鑑賞した。参加者は9名(うち2名編集部)と、ゲストの井上さんを加えた10名。5分程度のシンキングタイムの後、自分の気に入った短歌を2首選び、ポイントを各々コメントした。1つのお題に関するコメント発表がひと段落したところで、井上さんに総評をいただいた。

それでは、送られた作品の中から短歌とコメントを抜粋して紹介する。

ゲストの井上法子さん(左)と参加者の皆様

目次

『雲』を詠む

愛情もクラウド化して人類を愛で支配しひれ伏させたい

・殺伐としてるようで、ちょっとチャーミングな雰囲気が独特で素敵

・雲、というお題をインターネットのクラウドに拡張させていて斬新

 

冷気充つ部屋から見ゆる夏の雲眩しさに直ぐ閉めたカーテン

・冷気が充ちている部屋の様子がまず雲みたいで、本物の雲と対比になっているようで面白い

・雲というのんびりしたイメージの言葉からあとの語がスピード感があって、緩急がついている

 

傘もなく雲の嗚咽に鉢合わせ 湿気た靴下むき出しの腕

・雨に突然降られた時の嫌な気持ちが滲み出ている

・「むき出し」の肌感がいい

 

井上さんの総評「1つの短歌について作者でも意図しなかった感想が聞けるというのは、歌会の醍醐味ですね。一口に雲と言っても空間に着目した短歌であったり、儚さが現れていたり、さまざまで興味深いです」

『汗』を詠む

三角に引っ張られ犬身(いぬがみ)となり、汗かきながら太陽礼拝

・途中まで呪文みたいだが、最後の「太陽礼拝」でヨガの話だ、と種明かしされる構成が秀逸

・「三角」という初句が、尾句では太陽を中心としたピラミッドを意識させる感じが神秘的

 

終電後の線路沿いで汗を折るシーツに白波寄せて返して

・汗を折る、で寝ている人間のことを間接的に表現されていておしゃれ

・確かに寝汗をかく人って線路沿いみたいなところに住んでる人なんだろうなぁという説得力がある。六本木に住んでいる人はこういう経験なさそう

 

ライブ後の体をぬける外の風、かいた汗だけ軽やかに生きる

・イメージの話の中で挟まれた「かいた汗だけ」の物質感が軽さを際立てていて爽快感がある

・「汗」とベタベタした印象がある言葉を使って、希望のあるような終わり方になるのが新鮮

 

井上さんの総評「汗っていうお題だからなのか、さまざまなバイオリズムが表れている気がします。あとは(参加者が選んだ短歌を)読み上げるときにつまずいたり、読み間違えたりするのも、ライブ感があっていいですね」

『サイダー/ラムネ』を詠む

肉まんも英語の街のお土産にカレーラムネの味をしらべる

・肉まん、英語の街、カレーラムネ、出てくる言葉のチョイスがいい

・「カレー」に「ラムネ」をぶつけると絶妙に胡散臭い代物を想像させて小気味よい

 

水生の玉が棲まうラムネ瓶 小さな海を持ってうれしそう

・かわいいイメージと、「水生の玉」って大袈裟な表現がよいギャップを産んでいる

・うれしそうなのがラムネの玉なのか瓶を持っている人なのか色々によめる構成が面白い

 

バニラに空色染まる紫陽花たち。溶け合いは日々進む僕らも

・バニラアイスが溶けていく感じと、紫陽花の花の色が移り変わっていく様子が表現されていておしゃれ

・クリームソーダのイメージだと思うけど、人間の価値観のことも言っているようで興味深い

 

井上さんの総評「具体的なお題ですが、多様に解釈できる短歌が多かったですね。ラムネといえば、日本ではお祭りの飲み物ってイメージがあると思うんですけど、その場面を詠んだ短歌はなかったですね。もしかしたらコロナの影響で、お祭りが軒並み中止になっていたことも原因かもしれません」

歌会を終えて

こうしてみると、1つの言葉から実にさまざまな場面や感情が表現されている。もっとも、短歌は押韻や句切れのリズムなどが評価点として加味されるため、1つの短歌の中でお題がどのように扱われているかだけに着目するのは、あまり意味がないかもしれない。

しかし、お題から逆算して短歌が出来上がったということは、1つの言葉から各作品が分岐していったと言って差し支えないだろう。そういう意味では、言葉の多面性を十二分に堪能できたのではないだろうか。

短歌が初心者の筆者としても、提出した歌をみてもらい、盛り込んだ意図とは異なる考察を言葉にしてもらうことは非常に新鮮な体験であった。自らの中でじっくり向き合う意味でも、他人の頭の中を覗き見る意味でも、言葉の奥深さを再確認した会であったと思う。

最後に、上で紹介しきれなかった短歌を以下に紹介して、結びとしたい。なお、参加者のうち3名の短歌はご本人の希望により非公開とする。改めて、今度の歌会にご協力いただいた皆様に深く御礼を申し上げます。(文 三塩真穂)

たちのぼる積乱雲を晴らすような君の報せを少し眺める

「雲を撮るなんて変だ」という人と別れた日に見た雲のない空

「朝にクモみれば悲しむ」と云うおば「夜雲あれば朝は夏日だ」

 

二十℃に合わせた冷気風呂上がり汗で濡らした肌に突き刺す

脇汗を見て見ぬふりをする人は本当に優しいのか問題

じっと寝るこめかみに纏う線香の香りのあいだ縫うような汗

 

サイダー/ラムネ

母に百円を貰って買うサイダー今は飲めない特別の味

さよならの途中だって私が好きじゃないサイダー2つ注いでる

ジョニ黒をサイダー割りで飲む人がワサビは刺身のうえに乗せてる

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