【前編】写真家とライターの夫婦が20年間、日本中を巡り「おべんとう」を取材し続けてきた理由

それは湿気を含んだ唐揚げとおにぎり、あるいは整列したカラフルなサンドウィッチ、あるいは保温容器に入ったおでん……。人の数だけおべんとうがある、とはよく言ったものだが、まさにその言葉を知らしめるがごとく、およそ20年に渡って「普通の人」のおべんとうを取材し続けている夫婦をご存知だろうか。

 

写真家の阿部了(さとる)さん・ライターの直美さん夫妻である。

阿部直美さん(左)、阿部了さん。

 

NHK総合のテレビ番組「サラメシ」で、働く人のおべんとうを撮影する「おべんとうハンター」了さんの発案で始まった、日本各地を回る旅。おべんとうとその持ち主のポートレートは、直美さんの取材によって綴られた持ち主の言葉とともに「おべんとうの時間」という連載になり、ANAの機内誌『翼の王国』に掲載されているほか、書籍としてシリーズ4まで刊行中だ。

 

おべんとうのこれまでとこれから、そしておべんとうを通した先にある魅力についてお話を伺った。

 

目次

オンラインではできない取材スタイル

 

ーー「おべんとうの時間」は取材対象の方のところに直接行ってお話を伺うスタイルですが、コロナ禍ということで、取材の方法に変化はありましたか?

 

(阿部直美さん、以下「直美」)直美:実は変わりなくやっていて。

 

(阿部了さん、以下「了」)了:私たちは東京在住なのですが、こういう時代だから、地方に行くことが難しい状況でした。でも連載は毎月あるので、首都圏の行ける範囲で何とか回していました。

 

近場だけで済ませていいのかと思うこともあったけど、そうするしかなかったですね。この取材は、実際に現場に行って顔を合わせて、自分の目で見てみないとできないです。僕の場合は写真だから、そもそも現場に行かないと始まらないわけだけど。

 

直美: 「おべんとうの」時間は、オンラインだとやりようがないんですよね。私たちの取材って、その人がどんな人なのかわからないところから始めるわけですよ。さらにはその人がどんな地域で暮らしていて、職場がどういう地域にあってどんな風なのかというところも、その人を作る情報としてあるわけで。

 

となると、会って感じて初めて、「あぁこういう人なんだ」とわかって、ようやくその人の語る言葉を文章にできるんですよね。それをオンラインでやってしまうと、その人のことをよく知れないし、そこまで感じられない。書くことなんてできないな、という気持ちがありました。

 

了:緊急事態宣言が明けたばかりのころに一度、地方に取材に行こうとしたことがあるんです。でも東京から行くと伝えると、『もうちょっと待った方がいい』って言われたんですよ。そういうところで、地域の雰囲気を考えさせられましたね。

 

直美:やっぱり東京の人が行くっていうのは、受け入れる方も本当に大変なことだと改めて思いました。高校生活最後のおべんとうを学校で撮影させてもらう予定だったのが、緊急事態宣言の延長が続いて難しくなってしまったり、今まで通りにいかないこともありました。

『おべんとうの時間』はおべんとうの写真、持ち主の方、食べているところ、文章で構成されている。

ーー今回のような社会情勢がおべんとうに反映されていたり、透けて見えたりすることはありますか?

 

直美:文章にして読んでみると、そのときの世の中がどんなものか、お話に含まれていたことはあるし、透けて見えてくるのもあると思います。取材のときはそういう話を聞こう、とは全然考えていないんですよ。もちろん読んだときに感じてくれる人もいるだろうけど、わざわざ狙って書こうとは思ってないですね。

 

毎回その人はどんな人なんだろうっていう、純粋な興味が出発点で、その人のおべんとうや生活を想像すると本当にワクワクして、知りたくてたまらなくなるんです。

 

了:おべんとうも、(取材を意識せずに)なるべく普段通りに用意してもらうように。基本的に食事って、その人の暮らしや仕事に必ず結びついてるものだから、実際に現場に行って出会うことが楽しみなんですよ。だから取材対象の人が専門職であったとしても、あまりその仕事について調べないで、現場で直接教えてもらうようにしています。その人に実際に会って聞くことが全てというか。

(筆者注:阿部夫妻の取材方法は、ご夫妻(時に娘さん)のアンテナにビビッときた地域や会社に「取材したいのですが、おべんとうの人はいませんか」と問い合わせ、OKをもらえたら現地に行く「体当たり取材」である)

 

おべんとうからそれぞれの人生が見えてくる

 

ーー「おべんとうの時間」は人の物語でもあると思います。全国を回って取材しに行くほど、人に対して興味を持たれるきっかけはなんだったのでしょう?

 

直美:もともと人を観察したくなっちゃうタイプだったと思うんです。うちの父と母がすごく独特で、あまりにも理解できないからずっと見ていた経験が活きているというか……。理解したいけれどできなくて、モヤモヤしていたのを吐き出すためにも書くしかない、ということがあったからなのか、人にすごく興味があるんですよね。

 

たまたま夫と2人ですることになったテーマがおべんとうだったわけですけど、食べ物を通すとその人についていろいろ引っ張り出せちゃうわけですよね。インタビューもいつも2時間くらいしています。その面白さもやってみて初めて気づいたぐらいだから、興味で突き進んで、変わらず今も同じことをやっているというか。

 

 

ーー「おべんとうと人」という興味の対象が20年近く持続しているということですよね。それはすごいな……。

 

直美:一人ひとり人生が本当にみんな違うから、毎回楽しいんです。だから飽きることも全くなくて。もし、惰性で取材をして文章を書いたら、読んでも楽しくないと思うんですよね。その気持ちは読者に伝わってしまうはずだし。

 

了:みんな違うというのは、続けてこられた理由の1つですね。そこに行って、こちらから先入観を持たずにその人のことを尋ねて、ただ受け止めるというスタンスがいいのかもしれません。おべんとうが人によってこうも違う、というのはやってみなければわからなかったけれど、似ているようで違うおもしろさが読者に伝わってるのかな。

 

ーー「普通の人」のおべんとうやエピソードには、いわゆる「映え」や「面白さ」「派手さ」があるとは限らないと思うんです。でも一般的には、メディアに掲載する以上、キャッチーなものが求められがちですが、そこも流されずにやってこられたのは大きいでしょうか。

 

直美:ラッキーなことに人選に関して、編集部からは好きにやっていいですよと言っていただけて。確かにおもしろさを求められるというのはあると思いますが、どんな人に会うか毎回わからないわけですよ。

 

例えばすごく生真面目でボソボソしか喋らない人かもしれない。でもその人の人生や仕事のやり方が絶対あるはずで、それをそのまま聞いて、なるべくちゃんと伝わるように書くことこそ私達の役割だろうなって思ってるので、キャッチーさは求めていません。

 

了:面白いというか、雰囲気を伝えたいと思ってるよね。

 

直美:雰囲気が行間に乗ればいいと思ってるんだけどね。(取材・文 三塩真穂)

後編に続く

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