恋の行方を左右する!理想的なデートご飯はこれだった

思えば、本から得た学びは多い。ある程度世代が違えど、一定の情報量を本から得るという体験は、読書好きならば共通しているのだろう。筆者はデジタルネイティブど真ん中の平成生まれだが、宇宙が真空であることも、恋のきらめきも、薬物中毒の愚かさも、インターネットや授業の前に本から教わった。

 

中でも印象に残っているのが、デートで食べる理想のメニューである。これは『永遠の出口(集英社)著・森絵都)』に記されている人生で最も有用な情報であり、小学生のときに触れた際にはいろいろと衝撃的であった。

 

『永遠の出口』あらすじ

小さい頃、私は「永遠」という言葉にめっぽう弱い子供だった――。10歳から18歳まで。ナイーブでしたたかで、どこにでもいる普通の少女、紀子の成長をめぐる、きらきらした物語。

 

本書では理想のデートメニューとして「口の周りにつかない」、「かじっても崩れない」、といった条件が羅列され、主人公が試行錯誤の結果導き出したグラタンこそが至高であり、デートのときはそればかり食べていた、という旨の記述がある。

 

それ以来、筆者の頭の中にも「デートといえばグラタン」という公式ができあがってしまい、やがてそのときが来てもなんとなくグラタンばかり頼んでいた記憶がある。しかし考えてみてほしい。本作の舞台は70年~80年代の古き良き日本社会である。現代に比べ食の選択肢は格段に少なかったと言ってよい。原作の舞台から、実に40年が経過しているのだ。

 

時は令和、世界はグローバルである。今こそ時代に合ったメニューを再び検証し、理想のデートメニューに新たな風を吹かせるべきではないだろうか。そういてもたってもいられなくなった筆者は、Ubereatsをインストールした。

目次

優れたデートご飯の条件

 

理想のデートメニューを模索するにあたって、懸念点がいくつかある。1つは、公平性。食べ物には好みがつきものだ。AとBのメニューがあるとして、デートメニューとしてはAの方が優れているけれど、Bの方が好きだからそっちを頼むぜということがあってはならない(恋もオシャレも人生も我慢でできている)。

 

そこで、「優れたデートメニュー」とはなんたるかを示す指標をいくつか提示する必要があると言える。前述した通り、原作で記述されていた2つの条件に加え4つの基準を考案し、それに沿ってメニューを評価していくことにした。選定した6つの基準は以下の通りである。

 

  1. 口の周りにつかない(原作より)
  2. かじっても崩れない(原作より)
  3. ニオイが残らない
  4. 彩りがいい
  5. 歯に挟まらない
  6. 大きな口を開けずに済む

 

次の懸念点は普遍性である。料理のメニューは店によって千差万別で、中には普段あまり口にできないものも少なくない。よって「近所のフランス料理屋で出している鳩のローストを選出したい」ということが起こると、個別性の強いメニューのため、実用性に乏しい検証になってしまう。そこで今回の選考にあたっては普遍性を重視し、「チェーン店もしくはそれに準じるお店で料理を注文する」ことをルールとした。

 

それぞれの料理を実食し、前述した6つの基準について5点満点での評価した上で個別にコメントを述べていく。血で血を洗うような食闘(フードファイティング)を繰り広げた結果、見事理想のデートメニューに採択された3品を紹介しよう。なお、あくまで筆者と編集部の独断と偏見に基づいた結果であることをあらかじめ了承いただきたい。

理想のデートご飯3選

 

ミニサンドイッチ

口につきにくさ :★★★★★
崩れにくさ   :★★★★
ニオイの残らなさ:★★★
彩の良さ    :★★★★★
はさまらなさ  :★★★★
口の開きの小ささ:★★★★★

 

見た目の可愛らしさと、サンドイッチという料理の特性上、さまざまな種類が楽しめることで選ばれた一品。ミニ、というところがミソで、一般的な三角形のタイプやバゲットタイプだと「口の開き」でやや評価は落ちる可能性がある。ピクニックデートの際に自作して、センスの良さと料理上手をアピールできるところもいい。

 

お寿司

口につきにくさ :★★★★★
崩れにくさ   :★★★★
ニオイの残らなさ:★★★★
彩の良さ    :★★★★★
はさまらなさ  :★★★★★
口の開きの小ささ:★★★★★

 

我々が誇るべきJAPANESE PERFECT FOOD SUSHIが堂々のランクイン。ネタによっては生臭さが少々残るのが懸念点だが、ガリをお供とすることで改善できる。彩りの良さ、食べやすさはピカイチで、さすが世界に羽ばたいただけはあると思わず唸ってしまった。なお、筆者の大・大・大好物であるが、断じて、断じて私情は挟んでいない。

 

キッシュ

口につきにくさ :★★★★★
崩れにくさ   :★★★★
ニオイの残らなさ:★★★★★
彩の良さ    :★★★★
はさまらなさ  :★★★★★
口の開きの小ささ:★★★★★

 

美食大国おフランスからの刺客は当然のように高評価であった。一見崩れやすそうだが、じっくり焼き上げられた生地は意外にもしっかりしており、口に入れるまで余裕で形を留めている。また、水分が少ないため汁が垂れたり口の周りについたりする心配がないところも頼もしい。そこはかとなくオシャレだが気取らない雰囲気は、仲が深まりきっていない初めのデートにもぴったりだろう。

 

以上が選考の結果、理想のデートメニューとされた最強軍団である。ちなみに選考には漏れたが、候補として挙がったメニューはリゾット、コブサラダ、焼売、チーズフォンデュ、ニョッキ、雑炊などである。

 

では逆に、いくら美味しそうでも、大好物でも、絶対に頼んではいけないデートメニューは存在するのだろうか? するに決まっている。合わせて検証した最悪デートメニュー軍団もぜひご覧に入れたい。

最悪のデートご飯3選

 

カレーパン

口につきにくさ :★
崩れにくさ   :★
ニオイの残らなさ:★★
彩の良さ    :★
はさまらなさ  :★★
口の開きの小ささ:★★

 

子どもも大人も大好きなカレーパンだが、残念ながらデートにおいては絶対に避けるべきという検証結果が得られた。特にあの周りのチリチリが、あれがいけない。もちろんカレーパンの美味しさの要であることは重々承知しているが、あれは手だの口だのあらゆるところに付着する上に、小さいから拭いきれない。洋服にでもついたら最悪である。

 

全体的な油で唇がテカテカになるのを利用して色っぽくできるという考えもあるが、どうせテカテカにするならリップクリームを使うべきだ。

 

イカ墨パスタ

口につきにくさ :★
崩れにくさ   :★★★
ニオイの残らなさ:★★
彩の良さ    :★
はさまらなさ  :★
口の開きの小ささ:★★★

 

なかなか珍しいメニューではあるし、せっかくだからあの独特のコクと匂いを味わいたい気持ちはよくわかる。しかしこの溢れんばかりの「全てを染め上げる」意思に敵う者は誰もいないのだ。流行りのティントなんて目ではない。「口の中がすごいことになってるよ」と、デート相手が笑ってくれる関係性が築けるまで、控えた方が無難だろう。

 

ガーリックシュリンプライス

口につきにくさ :★★
崩れにくさ   :★★★
ニオイの残らなさ:★
彩の良さ    :★★★★
はさまらなさ  :★
口の開きの小ささ:★★

 

一風変わった料理だが、一般的な食料品店で販売されていたことを加味して採択された一皿。近ごろ流行りのエスニック系統として実食したが、よくよく考えればガーリックシュリンプはハワイのソウルフードである。

 

さて、この謎の料理だが、見た目はおしゃれで可愛らしい。赤いエビが白いご飯に映えて食欲をそそる風貌だ。しかし一口食べれば最後、強烈なニンニクの香りが口を支配するとともに、殻ごと調理されたエビをバリバリと噛み砕くことになる。味は良いのだが如何せん匂いと音が不適切極まりなく、凄まじいギャップにやられる人は多いのではないだろうか。

 

以上が最悪のデートメニューたちだ。もし機会があれば、参考にしてほしい。念の為申し添えておくが、上記のメニューはあくまでもデートには適さないというだけで、友達や家族と食べる上では全く問題ない。ぜひもりもり食べてもらいたいところである。

 

なおこちらでは、レバニラ定食、クラフトハンバーガー、スタミナラーメン、焼き魚(骨あり)、あんかけ焼きそば、ピザ(カットされていないもの)、サンチュで巻くタイプの焼肉、納豆&キムチをトッピングした牛丼などが候補として挙がった。

 


 

さて、最後に、さまざまなメニューを食した中でも「これはデートメニュー史に残るな」と感動した理想・最悪のデートご飯を、それぞれ殿堂入りとして紹介したい。まずは理想から。

 

【殿堂入り/理想のデートご飯】ドリア

原作で至高とされたグラタンとは親戚のようなメニューであるドリア。マカロニから飛び出るホワイトソースを被弾する恐れがないため、個人的にはこちらの方が無難なように思う。メニューによっては彩りが悪いことが玉に瑕だが、一般的だし、値段も手頃だし、何より原作で太鼓判を押されたメニュー(の親戚)と非の打ち所がないということで殿堂入りとした。

続いて、最悪の方を紹介する。

 

【殿堂入り/最悪のデート飯】カニ

もう、この風格である。ものこそ言わぬが「食べにくいです」というオーラが全身から発せられており、まさに強者多くを語らず、と言った具合だ。実際食してみてもバキバキ音はするわ手は生臭いわ黙るわで、デートどころではない。コミュニケーションが苦手な相手と飛び道具的に食べる分にはありかもしれないが、殻をむさぼる姿は誰がどうみたって百年の恋も冷めるだろう。

 

最悪度合いがずば抜けており、比較する他のメニューがあまりにも霞んでしまうという理由で見事殿堂入りを果たした。以上がメニューの検証である。

 

検証を終えて

 

こうしてみると、エビ・イカ・カニといった無脊椎動物はデートに不適切だという傾向が見られる。理由を考えてみたが、背骨がなく硬い殻で覆われている都合上、どうしても剥く、もしくは剥かずにそのまま食べる事になる。そうすると大きな音が鳴るのは必至だ。デートで音が鳴る食べ物はどちらかというと避けることが好まれるので、このような結果になったのではないか。

 

イカは殻こそないものの、脊椎動物と比べると身体が小さく身が少ないため、思う存分味わおうとするとワタやスミといった癖の強い部分を食すことも多い。そういった観点から、デートには向かないとカテゴライズされてしまったのではないだろうか。

 

一方、理想のデートメニューに名を連ねたメニューは洋食が目立つ。これには、食べる際にナイフやフォークを使う食文化が関係しているのではないか。キッシュやドリアは、食べやすい大きさに切り分けたり、ちょうどいい量だけをすくったりすることで、食べる前に口に入れる量を調節することができる。そうすることで、ぼろぼろこぼすこともなければ、汁が飛ぶ可能性も軽減できる。

 

それに対して箸を用いることが多い和食や中華料理は、口に入らない具材は「噛みちぎる」ことになる。噛みちぎる際は汁などが飛び散る危険もあるし、歯を出して具材を引っ張る様は美しいとは言えない。そういった食べるときに使う道具に起因する差異により、自ずと洋食が選ばれる割合が高くなったのではないか(唯一和食でランクインしている寿司は、噛みちぎる必要がない)。

 

とはいえ、デートをきっかけに将来をともにしていくような相手となれば、あれを食べるのはいいけどこれは気が引けるなど細かいことは言っていられなくなると思う。むしろ、例え醜態を晒したとしても「これおいしいね」と笑い合えるような相手と巡り会うのが1番の幸せで、それこそ「理想」の人生プランなのではないか、ともっともらしい言説でこの記事を終えたい。(文・三塩真穂)

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