【前編】作曲家・新垣隆さんの告白本『音楽という〈真実〉』 佐村河内さんが悪者になってしまったワケ

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2014年、年明け早々お茶の間を沸かせた「佐村河内事件」。その当事者である、元ゴーストライターで作曲家の新垣隆氏が、一連の騒動について詳細に記した著書『音楽という〈真実〉』を上梓した。

 

 

あの会見の日まではほぼ無名であった新垣氏だが、最近ではバラエティのテレビ番組などでも頻繁に見かけるようになった。事件からおよそ1年という月日を経るなかで、とりまく環境も大きく変化したわけだが、彼自身の心境はどのように移り変わっていったのだろうか。

 

会見のときと同様、丁寧で、ひとつひとつ言葉を噛みしめるかのようにして、新垣氏は語りはじめた。

 

 

目次

「あの事件」以外に、自分の音楽的な生い立ちについても語ることができた

 

—こちらの著書『音楽という〈真実〉』は、どのような経緯で出版することになったのでしょうか?

 

本の編集担当でもある、小学館の村井康司さんに声をかけていただいたことがきっかけです。この1年間、どうしてこのようなこと(ゴーストライター事件)が起こってしまったのか、ずっと考えていました。それについて、改めて皆さんに公言したいと思い、本を書くことを決意しました。

 

 

—制作はいつ頃から始めたのですか?

 

着手し始めたのは今年に入ってからです。かかった期間はおよそ半年弱ですね。インタビュー形式で、私が話した内容をライターの方や村井さんにまとめていただきました。

 

音楽に関してはベラベラととりとめもなく話してしまったので、それをまとめる作業はなかなか大変だったと思います。

 

 

—今、「話した内容をまとめていただいた」とおっしゃいましたが、出版の世界ではゴーストライターという職業の人が当たり前のようにいます。今回の本の書き方も、ある意味では「ゴーストライター」的な手法ですよね。ゴーストライターとしていい意味で成立するものと、「悪」になってしまうものの境目とはどのあたりにあると思いますか?

 

悪くなっちゃうのは、佐村河内さんのときだけですね。アーティストがアートの部分を人にやらせて、それを「自分の作品だ」といってしまうのが単純にまずいと、ただそれだけの話です。

 

 

—本を発売してからどのような反響がありましたか?

 

内容としては、佐村河内さんとの一連のやりとりを中心にせざるを得なかったのですが、その前後に私自身の音楽的な生い立ち、今後についても書くことができました。なので、音楽的な部分で興味をもっていただけた方もいらっしゃったようです。「音楽とは違った領域でも触発される部分がある」と言ってくださった方もいて、それはすごく嬉しかったですね。

 

 

―人に言えない隠し事を持っているけれど、打ち明けられずに困っている方にアドバイスをお願いします。

 

隠し事を自分の中に閉じ込めてしまうことで、苦しみになってしまうのは良くないですね。まず自分の胸に聞いてみて、できるだけオープンな形にするのがいいと思います。でも一人で解決するものではなく、仲間がいるからこそ解決できるときもあるのかと。私の場合は、これ以上続けられない、というところまで来ていたので、ああいう形で発表できたのはラッキーでした。

 

 

音楽は、人と人との関係が紡ぎ出すもの

 

—著書において、「(仕事を)頼まれたら受ける」、「世の中が求めているのだったら(やりたい)」という言葉が多く見受けられましたが、外部からの声抜きに、新垣さん個人として今後やっていきたいことはありますか?

 

もちろん個人として積極的にやりたいと考えているものはありますが、それらも、元はといえば人との関わりの中で沸いてくる欲求なんですよね。音楽自体も、そのようにして人と人との関係がある中で作られていくものなので、純粋に個人だけでは完結しないと思います。

 

 

—「新垣さんは、人からの頼み事はなんでも受けてしまう性格」というような記事がありましたが、決してそういうわけではないんですね。

 

はい。結局のところ、自分にできることしかやっていないです。なので、音楽も出版もテレビも、同じメンタリティで引き受けています。音楽家はステージに立つ人間ですから、基本的にサービス精神が強いんですよ。

 

本来の自分のモチベーションと、そういったサービス精神が一緒になっているアーティストが、やっぱり一番輝いていますよね。(取材・文 月に吠える通信編集部)

 

後編に続く

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