団体戦準決勝。選手の思いに涙がこぼれる
団体戦準決勝、最初の試合は、下館第一高校対八戸高校。この試合では、三行分かち書きの特性を活かした歌が多く見られた。
特に、下館第一高校の林里美さんが披露した「あの道に置き去りにした夏がある/今でも耳から消えない/ごめん」という歌は、最後に「ごめん」という感情を持ってきて、歌に余韻を持たせることに成功していた。試合は、この特性をよりうまく歌に活かすことができた下館第一高校に軍配が上がった。
続く仙台高校と久慈東高校の試合は、中堅戦終了の時点で、久慈東高校が2勝し、決勝進出を決めた。その後の大将戦では、敗北し、涙ぐむチームメイトを見て、仙台高校の大森美南さんの感情が爆発。
大森さんは「去年先輩とチームを組んで準優勝を遂げることができたけど、先輩たちが卒業し、今年大会に出られるかも怪しい状態だったときにこの2人が部活に入ってくれて、なんとか一緒に出場できた。3人で助け合って予選も勝ち抜き、一緒に成長できた。ここまでついてきてくれてありがとう」と、仲間に感謝を伝え、会場のお客さんはその姿に目頭を熱くしている様子だった。
全国56チームの頂点が決まる
今年の短歌甲子園は、全国から56チームの応募があったが、本戦に出場できるのは、21チームに減少(昨年は36チームが出場できた)。本戦に駒を進めるのも狭き門となった。本戦に出場できなかった選手や、これまでの試合で敗れてしまった選手1人1人の思いを背負って、決勝に挑むのは、地元岩手県の久慈東高校と、2010年以来、7年ぶりの優勝を目指す下館第一高校。
題は「喜」。先鋒戦は、「振り向いて/君に喜びを言えたなら/鏡は十五の私をうつす」と詠んだ下館第一高校林里美さんの勝利。無意識ではあるが、歌の中に啄木の「不来方の/お城の草に寝ころびて/空に吸われし十五の心」が反映されているようだった。
続く中堅戦では、「題を見たときにチームで何を思ったか」という質問がされた。久慈東高校の大下美帆さんは「どう表現すべきか難しいと思った」と、下館第一高校の袖山空大さんは「動作で喜ぶのか、心で喜ぶのか。喜ぶといっても、いろいろなものがあると思った」と答えた。
結果、「打ちとりて/最後のアウトとれたとき/ゲームセットの声で喜ぶ」と野球部の姿に自分の経験を重ね、「喜」を婉曲的に表現した大下さんが勝利を収めた。
1対1でむかえた大将戦。久慈東高校の中公ルミナさんは「隣には/喜色たたえた友がいる/きっとこれこそ幸せなんだ」と仲間のことを素直に詠み、下館第一高校の大幡浅黄さんは「いのちとは/激動するもの吠えるもの/喜ぶために生まれてきたの」と本当に嬉しいときに沸き起こる感情を「吠える」と強く表現した。
両者の歌に対し、審査員からは「これまでの試合などを通じ、今後どのように歌を作りたいか教えてほしい」と大会以降の姿勢を尋ねる質問が投げかけられた。中公さん、大幡さん共に、「自分の気持ちを歌で表現したい」ということは共通していたが、中公さんは「相手に共感されること」を、大幡さんは「ストレートに歌を詠むこと」を意識していると答えた。
審査員はこれまで以上に悩んだ末、判定は3対2の僅差で大幡さんの勝利。下館第一高校が、大会初となる2度目の優勝を飾った。大幡さんは「優勝したいと常に思っていたが、試合が進むにつれ、その思いが高まっていった。本当に優勝ができ、夢のように嬉しい」と喜びを口にしていた。
最後に、特別審査員の小島ゆかりさんは「大伴家持が生まれて今年で1300年が経つ。彼がどんな顔で、どんな声をしていたかはわからないが、歌だけはわかっている。優れた歌を残せば、後世にもそうやって語り継がれることになる。今年、大会に出たことを誇りに思い、今後の糧にしてほしい」と選手にメッセージを残した。
4年前、私もこの大会に出場したが、当時よりも雰囲気は賑やかなものになってきている。LINEやTwitterなどのSNSの普及により、大会で出会った選手と気軽に交流することも可能になった。短歌甲子園は、短歌を競うだけではなく、同世代の短歌仲間に出会い、お互いを高め合う場としても機能していくことだろう。
昨年、10回大会で優勝した武田穂佳さんが短歌研究新人賞を受賞した。今回の大会に出場した選手から今後どのような歌人が生まれていくか楽しみだ。(取材・文 谷村行海)
この空も曖昧なまま
辞書にない言葉で定義していく
青春
(歌・谷村行海)