【第一回文学フリマ前橋レポ】地元の詩人、作家、朔太郎研究会などが参加!

“文フリ”の愛称でおなじみ、文学作品の展示即売会「文学フリマ」。プロもアマも関係なく、表現者たちが思い思いの作品を販売するイベントだ。“文学”と名前がついているものの、小説や詩歌、批評、ルポルタージュ、エッセイ、写真集など、会場に並ぶ作品のジャンルは実に幅広い。本人が「これは文学だ!」と主張すれば何でもありなのだ。

 

そんな尖ったコンセプトだけに、書店ではなかなかお目にかかれない、ゴーイングマイウェイな作品ともたくさん出会える。かと思えば、まだ世に出ていない傑作が無造作に売られていたりもする。ベストセラー小説「夫のちんぽが入らない」も、元々は同人誌として文フリで販売され、その衝撃的な内容が話題となったのだ。

 

文フリはこれまで、東京や大阪、京都、名古屋、福岡、札幌など各地で開催されてきた。そして去る3月26日、群馬県前橋に初上陸! 萩原朔太郎の故郷であるこの地に、どんな出店者が集まったのだろう。第一回文学フリマ前橋の模様をレポートしたい。

 

目次

開始早々からにぎわう会場

 

文フリ前橋の会場となったのは、前橋駅から徒歩10分ほどの場所にある「前橋プラザ元気21にぎわいホール」。群馬県内はもちろん、県外からも併せて約90ものブースが出店するという。当日、天気はあいにくの雨。初開催ということもあり、人は集まっているのだろうか。そんなことを思いながら会場を覗いてみると――。

 

開場時間の11時直後にも関わらず、会場はなかなかの盛況ぶりである。早速、ブースを回ってみた。

前橋出身の詩人・作家たちが出店

 

まずお邪魔したのは、前橋出身の詩人・北爪満喜さんのブース。詩の魅力を広く発信するイベント「前橋ポエトリー・フェスティバル」でも毎年活躍し、前橋のほか東京などでも展示を行っている。

 

「前橋は文学的に豊かで、詩人が育つ土壌があります。こんな街はほかにないと思います」と北爪さん。以前に詩の朗読会を開催したとき、地元の新聞社の記者がやって来て、取材かと思ったら個人的に参加しただけだったとのこと。またカフェを会場にした朗読会では、いつの間にか店主が参加していたこともあります、と笑顔で話してくださった。

 

続いては同じく前橋出身の作家・橋本純さんのブースへ。普段は京都在住だが、この日のために前橋に帰ってきたのだそう。戦争やホラーなど幅広い作風の橋本さんだが、この日は『百鬼無限』『忘レ去られる神たちに』など妖怪シリーズを販売されていた。

 

故郷の思い出について、「前橋には作家や詩人が多く、そういった先生たちから私も叩き込まれましたね」と、作家としてのベースがこの地で構築されたことを明かしてくださった。

 ビビりながら朔太郎研究会のブースへ

 

会場には「萩原朔太郎研究会」さんのブースが! 同会は1964年に前橋で設立し、50年以上に渡って朔太郎の研究や啓蒙を行っている団体。そのように歴史があり、真摯に活動を行っている会に、無断使用に近い形で「月に吠える」を名乗っている我々が近づいていいものか……石をぶつけられたりはしないだろうか……不安に思いながら恐る恐る声をかけたところ、快く対応してくださった。

 

「前橋で初めての文フリということもあり、研究会の告知を兼ねて出店しました。(会報誌の)SAKUは、用意した20部があっという間に売り切れて、慌てて補充しています。とてもいい感触でしたね(スタッフの方)」

 

優しい方ばかりで、こちらも一安心でした……。

 

前橋出身の方たちのブースがたくさん

 

「眠る犬小屋」さんのブースが販売していたのは、全国の郷土の妖怪が登場するライトノベル。著者の青砥十(あおとみつる)さんは、これまで東京はもちろん、大阪や京都の文フリにも出店してきた常連だ。

 

「前橋は水がきれいで料理もおいしい。人にとってすべての源がある。この環境を永遠に維持してほしいですね」

 

高校まで前橋で過ごし、現在は奈良に在住の青砥さんは、前橋の魅力をそう語ってくれた。

 

地元出身の写真家・阿部勇一さんは、1984年に解体された旧前橋駅舎の、最後の数年間を記録した写真集を販売。かつての前橋駅のレトロな佇まいは、当時を知らなくてもどこか懐かしさを覚える。

 

「昔の前橋駅は本当にいい駅でした。今でも懐かしく思いますよ。当時を知っているのは、僕より年上の人くらいでしょうね」

 

阿部さんはしみじみと振り返る。時代とともに移り変わる風景の記憶は、誰しもが共通体験として持っている。だからこそ、心を打つ普遍性があるのかもしれない。

 

県外からはるばるやって来た方々も

 

ここまで紹介したのは前橋にゆかりのある出店者たち。けれど、それ以外の場所からも、たくさんの方々がブースを出していた。その一つが、小説投稿サイト「エブリスタ」さんだ。「エブリスタ」が提供している「文学フリマ×エブリスタ 立ち読みカタログ」は、文学フリマ参加者おなじみのルーツ。さらにはエブリスタとしてのブース出展も行っている。これまで東京をはじめ、京都や金沢での文フリにも参加した。

 

「文フリの会場では、エブリスタに投稿してくださっている方や、読者の方と会えることが多い。普段は顔が見えないが、直接会って話をできる素敵な機会。また文フリや立ち読みカタログをきっかけに、エブリスタに興味を持ってくださる方もいます」

 

投稿者や読者と直に向き合い、交流を通じて「エブリスタ」を広めていくその姿勢、なんて真摯なのだろう。これからも多くの作家を輩出してください!

 

「クルミド出版」さんは、カフェ「クルミドコーヒー(東京・西国分寺)」から誕生した出版社。カフェ経営を通じて表現の可能性を考えていたという店主が、お客さんである二人の女性を著者に迎え、出版事業を設立した。カフェで提供しているこだわり抜いたコーヒーのように、手間を惜しまず、心を込めて作り上げた本が並んでいた。

 

「文フリでは、気軽に本を手に取ってもらえるし、私たちもお客様の顔を見て本を届けられる。著者や文フリを応援したいし、これからも出店していきたいです」

 

朔太郎は文フリに出ていたか!?

 

約800ブースも出店する文学フリマ東京(第24回)と比較すると、規模は小さいものの、「お客さんと出店者の距離が近い」「ゆっくり作品を見たり、出店者と会話したりできる」という声がたくさんあった。地方ならではのメリットだろう。県外からの参加者も多く、前橋や朔太郎を知っていただくいい機会にもなったのではないだろうか。

 

そういえば萩原朔太郎も、室生犀星と一緒に「感情」という同人誌を作っていた。もし朔太郎が現代に生きていて、文フリ前橋のことを知ったら、出店していたのかな。犀星と並んで店番をして、芥川龍之介や堀辰雄なんかがはるばる冷やかしに来たりして。そんな空想をしたところで、レポートを締めくくらせていただきます。

 

最後に宣言を。第二回文フリ前橋が開催されたら、次回は我々月に吠える、ぜひ出店者として参加したいと思います!! その際は皆さま、ぜひ遊びにいらしてくださいませ。(取材・文 コエヌマカズユキ)

 

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