「文藝」2015年冬号(河出書房新社)において、第52回文藝賞・受賞作が発表された。応募総数1786篇の中、受賞作となったのは山下紘加さん(21歳)の「ドール」。
物語は、少年が自分だけの人形であるラブドール・ユリカを手に入れ、そして“彼女”を巡って大きく展開してゆく。性、欲求、混乱――少年の錯綜する心の中に、ひっそりと存在するラブドール。
ピュアで歪んだ少年心理を描き切った若き女性作家に、受賞作「ドール」について、さらに小説に対する想いや私生活に至るまで伺った。
書いていくうちに少年の世界が自分の中で広がっていった
―はじめに受賞の感想を聞かせてください。
受賞と聞いたときは、本当に驚きました。最終候補に残ってから発表までは、あまりいろいろと考えないようにしていたので、(受賞とわかったときには)ただただ驚いた、という感じですね。今、こうして本になって、本当に嬉しい気持ちです。
―“ラブドール”という題材はなかなか刺激的ですが、着想を得たきっかけを教えてください。
映画などでラブドールが扱われているものを観たこともあって、なんとなく自分の中で、(題材にして)書きたいという思いがありました。
―実は取材前にラブドールをインターネットで検索してみたんですが、結構リアルですよね……。
生々しいですよね(笑)。私も書く前にかなり詳しく資料を見たり、画像を検索したりしました。途中で嫌になるんですけどね、「私は何をしているんだろう?」と思って。
―本作品では、学校でのいじめ、性、少年の複雑な感情など、多くのテーマが扱われています。このように、物語に多様な内容を取り入れることは、あらかじめ決めていたんですか?
“いじめ”は何となく入れようと思っていましたけど、その他のことは、書いていくうちにだんだん少年の世界が自分の中で広がって、それで書いていったという感じです。ラブドールというところから出発はしましたが、青春小説のようなものになっていけばいいな、と思いながら進めていきました。
―舞台を中学校に選んだ理由は?
イメージしていたのが中学生だったからです。「ラブドールを持っている中学生」という設定で書きたかったので。