西加奈子が信じる、かもめが「えっきょー」と鳴く世界観【東京国際文芸フェスティバル2016】

3

続く第三部では「キテレツのチカラ ――フィクションにしか伝えられないもの」というテーマで、シュールな舞台設定で人間のリアリティを描く短編の名手であるセス・フリード氏の短編集「大いなる不満」(新潮クレストブックス 2014)のキテレツな面白さを、同書を翻訳した藤井光氏と直木賞作家の西加奈子氏が楽しく解説し、その世界観の謎に迫った。

 

 

「大いなる不満」の中には、「サルをカプセルに入れて火山口に投下するプロジェクト下で起きた悲劇」や、「あらゆる事故が起きて人が死ぬピクニックの場所に、それでも人が遊びに行く話」等がカラフルに描かれている。

 

西氏は「キテレツな話だけれど、キテレツだけではない真実が描かれている。読み進めて行くうちに、これは私達におこった話だったかもしれないと思わせてくれる作品」「さらにすごいのが、このキテレツな設定を大げさに書いてない!どや?すごいだろ?という『どや感』が全くなく書かれていて、セスさんが切実な気持ちで書いているのが分かる」と作品の魅力を語った。

 

藤井氏は奇想と現実の距離感について、フリード氏と西氏の作品を比較。舞台設定がファンタジックなものが多いフリード氏に対して、西氏の作品では、日常の描写の中に、かもめが「えっきょー」と鳴く世界観がある。読んでいるとかもめが「えっきょー」と鳴くことに抵抗がなくなると指摘。

 

西氏はそれに対して「私は自分が信じられる世界しか書けないので、かもめが『えっきょー』と鳴くと信じて書いている。かもめが鳴いていることを私たちは『鳴いとるわ』と思うだけだけれど、かもめはとても大事なことを伝えているのかもしれないし、たとえば私はこの前蝙蝠を見る機会があって、彼らがすごく気持ち悪いと思ったけど、蝙蝠だって、人間が地面を歩いているのを見て気持ち悪いと思っているかもしれない」と、世界を違った角度から見ることによって生じる違和感が小説に生きていると語った。

 

さらにトークは第二部の内容にも触れ、小さなニュースの登場人物に光を当てるということや、ニュースとして日々流される情報という事実とは別に、ニュースとして伝えられなかった情報について目を向けて書いていくことが、フィクションにしか伝えられない大切なことなのではないか――と、小説を書くための視点や心構えについて意見が述べられ、一時間のトークセッションはあっという間に終了。

 

述べ三時間弱にもわたるイベントは、大いに盛り上がりつつ閉幕した。イベント終了後もセス・フリード氏のサイン本が完売するなど、文学の力を見せつけたこのイベント、次回の開催が早くも楽しみだ。(写真・文 四畳半しけこ)

1 2
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次