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日本が誇る平安文学『源氏物語』からの引用を中心に平安時代の恋愛アレコレを解説する本コラム、今回は男女の“出会い”についてご紹介します。
前回、平安時代の(貴族の)女性は基本的に男性の前に姿を現さない、とお伝えしました。そんな男女の出会いで重要な役割を果たしていたのは周囲の人々。
たとえば女性の親や親せき、女房(召使い的役割の女性)たちです。男たちに我が家の適齢期の娘の存在を知らせるために口コミで娘の噂をばらまきます。たとえばこんな具合に。
【女房】「うちのお姫さま、すごい美人なんだけど、そろそろ結婚させようって話だよ」
【男】「えっ、マジで? 美人ってどんな?」
【女房】「えっとね……(長所を盛り盛りで伝える)」
【男】「マジか~、ちょっと紹介してよ」
口コミですからいくらでも盛れます。不細工でも「絶世の美人」とか言えちゃうわけです。だから、逢ってみて「騙された!」ってこともあったに違いありません。『源氏物語』でも、イケメンプレイボーイ・光源氏が、噂に振り回されてひどい目に遭ったというエピソードが。
か弱い薄幸の美女と思い込んで口説いた女性。二回くらい関係を持った後、明るいところで顔を見てみたら……、
まづ、居(い)丈(だけ)の高く、を背(せ)長(なが)に見えたまふに、さればよと、胸つぶれぬ。うちつぎて、あなかたはと見ゆるものは鼻なりけり。ふと目ぞとまる。普賢(ふげん)菩薩の乗物とおぼゆ。あさましう高うのびらかに、先の方(かた)すこし垂りて色づきたること、ことのほかにうたてあり。色は雪はづかしく白うて、さ青(を)に、額つきこよなうはれたるに、なほ下がちなる面(おも)やうは、おほかたおどろおどろしう長きなるべし。痩せたまへること、いとほしげにさらぼひて、肩のほどなど、痛げなるまで衣(きぬ)の上まで見ゆ。何に残りなう見あらはしつらむと思ふものから、めづらしきさまのしたれば、さすがにうち見やられたまふ。
(意訳:びっくりするほど座高が高くて、しかもひどいのは鼻。象に乗った仏様が乗れるんじゃないかってくらい長くて、しかも先っぽが垂れて赤い。顔色も悪く顎が長くて超デコっ広。体もガリガリに痩せていて痛々しい。「見るんじゃなかった」と光源氏は思ったが、あまりにひどいビジュアルなので逆に目が離せない)
勝手に勘違いして口説いておいてひどい話です。でも、現代でもありますよね、プリクラとか写メとかが「実際と全然違うじゃん!」っていうパターン。
女子のみなさん、盛りすぎにはご注意ですよー。ありのままを愛してくれる素敵な男性を見つけましょ!
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※『源氏物語』の原文は新編日本古典文学全集『源氏物語』(小学館)のものを使用しました。