ゲイバーを拠点に創作活動、同人誌発行など行う「二丁目文芸部」が描く新宿二丁目と人々

新宿二丁目、言わずと知れた世界屈指のゲイタウン。その一角にゲイミックスバーA Day In The Life(以下、アデイ)がある。アデイでは、「二丁目文芸部」という文芸創作のサークル活動を行っており、その一環として「或ル日」という同人誌を制作している。「二丁目文芸部」とはいかなるものかつかみたく、部長でありアデイの水曜日担当スタッフのあっきー★さんにインタビューを行った。

目次

「二丁目文芸部」とは?

「二丁目文芸部」部長のあっきー★さん

――「二丁目文芸部」とは、どのような活動をされているサークルなのでしょうか?

私が部長として、アデイに関わる人たちと文芸にまつわる活動をしています。「私にとっての新宿二丁目」などのテーマが設定された3枚創作(※400字詰め原稿用紙換算3枚)の執筆や、その合評会の開催、同人誌「或ル日」の制作などを行っています。ほかに書きたいテーマがある場合は、枚数の制約なく自由に創作をしてもらっています。

 

――寄稿されている方は全員、文芸関係者の方なのですか?

いえ、執筆者は全員お客さんやスタッフで、普段は文章を書かない人も多いです。お店には色々な方が来るので、セクシュアリティはゲイに限定されることなく、トランスジェンダー、バイセクシュアルの方も参加しています。表紙や挿絵のイラストは、全てアデイの店長でありイラストレーターのこうきさんが描いています。

「或ル日」が描く新宿二丁目の人々の呼吸や生態

同人誌「或ル日」の創刊0号

二丁目文芸部の活動の一環として制作しているものが、同人誌「或ル日」だ。前出の3枚創作のほか、小説やエッセイに縁のある作家・著名人へのインタビューやグラビアで構成されている。表現方法は多岐にわたるものの、そのどれもが新宿二丁目をテーマに据えていることが特徴である。

――「或ル日」に掲載されている小説やエッセイは、新宿二丁目という大きなテーマのほかに、執筆者はどのようなことを意識して描いているのでしょうか?

最初に掲げたテーマとして、「僕たちのストーリーズを書き残そう」というのがあります。新宿二丁目を主人公に、一人ひとりの小さな物語という点を繋ぐことで、大きな街の全体像が浮かび上がってくるのでは、と考えたのがスタートラインです。それぞれが思い描く新宿二丁目は、過去の話からゲイの老後を描く近未来の話まで、時間的な広がりもあります。

 

――創作小説であってもファンタジーの要素はほぼなく、どの物語も地に足がついている印象を受けました。二丁目という街のリアルを意識しているのでしょうか?

特に意識はしていないですね。スタートは「私にとっての新宿二丁目」をテーマに据えた3枚創作で、創作というより個人的なエッセイを書くものでした。誰もが初めて二丁目を訪れたときの甘酸っぱい記憶が、根底にあることを感じました。結果として架空のストーリーというよりは、二丁目に根ざした人の呼吸や生態にフォーカスしたものが出てきた印象はあります。

 

――3枚創作には、酸いも甘いも詰まっているように感じました。新宿二丁目の楽しいだけじゃない部分も現れている、というか。

二丁目で飲んでいるからといって、みんな仲が良いわけじゃないですし(笑)。それこそゲイ同士だったら、マウントの取り合いみたいなことや、「モテ・非モテ」というテーマもある。二丁目特有の意地悪な感じって分かります? ウィットに富んだ、辛口なことを言えた方がちやほやされるという。昭和のママみたいな独特の感じ(笑)。でもそれが、この土地ならではの生き抜く方法だったりするのかもしれません。

だから、新宿二丁目は気合を入れて来る場所。同じようにゲイバーのある新橋や上野に比べると、おしゃれをして気を張らないといけないとエッセイに書いている人もいて、面白いんですよね。

同人誌を通じて「新宿二丁目」を届けられた

――部員は一般の方がほとんどとのことですが、編集長としてどのように執筆者と向き合っていたのでしょう?

編集者は、厳しく赤を入れるタイプと褒めて伸ばすの2タイプがいて、私は後者だと思っています。飲み屋の活動ですし、よく書けている点を多く見つけ、気持ちよく取り組んでもらいたいですね。

コロナ禍中は執筆者とメールでやり取りをしていましたが、コロナの合間にはお店で合評会を開催して、対面で感想を交換する機会を設けたんです。みんなにとって、新鮮な体験だったと思います。

 

――「或ル日」の編集期間はどのくらいでしたか?

コミティアという同人誌の即売会に参加することが決定していました。開催が2022年9月の頭だったので、実質的な編集作業は2週間くらいです。私を中心に、BLなどの同人活動に詳しい方と、デザイン担当の3人で行いました。短い期間でしたができちゃいましたね(笑)。われわれにとっては、夏休みの宿題みたいな感じででした。

 

――コミディアでの反響はいかがでしたか?

コミティアはBL作品のブースが多いんです。そんな中、「或ル日」も「新宿二丁目」をテーマに掲げていることもあって、若い男性から妙齢の女性まで購入してくれました。恐らくゲイと思われる若い男性は、遠巻きに見ながら、そっと買っていかれました。二丁目に行きたいけど、物理的に距離が遠いとか、ゲイであっても勇気が出ないなどの理由で、誰もが来られる場所ではない。作品を通じて「新宿二丁目」を届けられるいい機会になったと思います。

 

――「二丁目文芸部」を始めたそもそものきっかけ、経緯を教えて下さい。

私がアデイの水曜日に入って6年目になります。3年前にコロナになり、飲食店がみんな大変な状況の中で、このお店もお客さんを繋ぎとめる策を練りました。そこで、私は文芸編集者だったのですが、お客にも一定数書きたい人がいるのを感じていましたし、リモートでも繋がれる「二丁目文芸部」をスタートさせたのです。

発起人はアデイのオーナーであり、作家の伏見憲明さん。文章教室をやりたいという話を前々から伏見さんとしていたこともあり、ぜひこの機会に文芸部をやりましょうということになりました。

アデイに訪れる人々

お店にはオーナー・伏見憲明さんの著作や関連本が並ぶ

――あっきー★さんがアデイに入るようになったきっかけを教えて下さい。

出版社に勤めていた時代に伏見さんの担当だったんですね。アデイには客として通っていたんですが、会社を辞めてふらふらしていたときに、伏見さんに「暇なら手伝いなさいよ」と声をかけていただいたんです(笑)。

 

――アデイはどのような方が多いのでしょうか?

やはり伏見さんが磁場となっていると思います。文筆に関わる方や、映画や芸術に興味がある方、もちろん伏見さんの本を読んで来る方も多いですね。自伝的小説『エゴイスト』が最近映画化された故・高山真さんもお客様でした。

私が店番をしている水曜日は、一人でフラッと来る方も多いです。私自身もワーッと話すタイプではないし、平日のしっとりした落ち着きが合っていると思います。ただ、しっとり飲めないときもありますけどね。終電が近づいても、他のお店のママさんが来てくれることもありますし、「あっきー★さん、他のお店行きましょうよ」とアフターに誘ってくれる人もいます。

 

――初心者やノンケにとって、二丁目はハードルが高い印象がありましたが、実際に歩いてみると、皆さん楽しそうに飲んでいると感じました。

ここ数年で観光バーも増えました。以前は出会いを求めて二丁目で飲むゲイの方も多かったのですが、出会い系アプリが普及したせいで、来る人が少なくなったかもしれません。その影響もあり、外国人やノンケに開かれた店が多くなりましたね。

 

――ありがとうございました。今後の「二丁目文芸部」の在り方を教えて下さい。

3月末を締切に、「或ル日」の次の原稿を集めています。3枚創作についても、「私にとっての新宿二丁目」だけでなく、「あの時、流れていた音楽」「艶めく瞬間」と、ほかのテーマも用意しました。個人的には前回よりも、エロスや性愛の要素を増やしたいなと思っています(笑)。部員も募集中なので、興味を持った方はぜひ気軽にご連絡ください。

終わりに

インタビュー中、開店時間の19時を過ぎると、お客様が訪れ始めた。バーカウンターの中には、お客様との会話を続けながら、筆者にも優しく語りかけるあっきー★さんの姿があった。取材を通して、「二丁目文芸部」や、その発信基地であるアデイは、新宿二丁目の中でひと際穏やかな場所だと感じた。

二丁目は一見キラキラとした場所だが、そこには、集う人の数だけの切なさや、悲しみがある。二丁目を主役として巻き起こる様々なドラマを、同人誌「或ル日」は捉え続けるのではないだろうか。(取材・文 らぶそん)

『二丁目文芸部』公式ツイッター

https://twitter.com/2chome_bungei

『或ル日』オンラインショップ

https://2chomebungei.base.shop/

A Day In The Life

東京都新宿区新宿2-13-16 藤井ビル203

定休日:火曜日

公式ツイッター:https://twitter.com/noriakikoki

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