青鯖の缶詰風ポーチ、名作がモチーフのお茶…ユニークな文学グッズが話題のフェリシモ「ミュージアム部™」に話を聞いたら、文学愛がすごかった

何気なくSNSを見ていたある日、衝撃的なものを見つけました。その名も「文学作品イメージティー」。中島敦『山月記』、高村光太郎『智恵子抄』、室生犀星『蜜のあわれ』、江戸川乱歩『孤島の鬼』など、名作文学をイメージしたお茶が販売されていました。本が飲めるとは、なんて斬新な発想でしょうか……!

その商品を作っているのは、フェリシモ「ミュージアム部™(以下・ミュージアム部)」。調べてみると、文学シリーズという、文学に関連したネイルシール、ポーチ、ハンカチなどのグッズを多数制作されています。しかも、どれもお洒落で斬新。ユニークな作品の数々はどのように生まれたのか、ぜひお話を聞いてみたい!

そう思い、ミュージアム部の文学シリーズ企画担当の齋藤友里子さん(活動名:ささのは)に制作秘話を伺いました。

目次

 文学館に行きたくなるようなグッズを届けたい

 ――ミュージアム部について教えてください。

 私たちは株式会社フェリシモ内の、アート・歴史・文学などミュージアムで展示されるものや、ミュージアムの空間や、ミュージアムグッズが好きな社員が集まって発足した部活動で、現在は事業部となって活動しています。ミュージアムの魅力をお客様にお伝えするべく、各地にあるミュージアムや企画展とコラボしてグッズを制作するほか、ミュージアム部オリジナルのミュージアムを楽しむための商品を企画しています。

  

――ユニークなグッズがとても多く魅力的ですね。これらのグッズの企画~商品化までは、どのように進めるのですか?

 商品アイデアを発案した人が、企画に関係する部分は商品発売に至るまで全て手掛けています。発案→企画イメージ出し→製造メーカー様と形状・仕様の相談→商品の試作や修正→カタログ誌面の表現の案出しや調整・最終確認→商品発売という流れです。私の場合、商品紹介ブログ執筆や、SNSでの発信内容の制作まで行っています。

発案から商品の発売までは短いものでも半年は必要です。私が過去に企画した商品の中で一番長い商品では、「YOU+MORE!(ユーモア)」というブランドから発売している「ステンドグラスの傘」が、商品の発売までに26ヵ月以上かかっています。

文学シリーズの商品については、題材となる作品を読み込むほか、史実についての研究・調査なども必要となるので、ひとつの商品の企画が完成するまでに1年以上必要なことがほとんどです。

宮沢賢治がレコード収集を好きだったことから着想を得たポーチ

――なぜ「文学シリーズ」を作ることになったのですか?

昔から本を読むことが好きだったのですが、ミュージアム部に入ったことで「本に親しみたくなる、そして文学館に行きたくなるような商品」を作りたいと思ったことがきっかけです。

文学館に行くと、工夫がこらされた展示方法によって、読書だけでは知りえないような作品の深い魅力を再発見できたり、作家の個性・小話・交友関係などを知ることができたりするのがすごく面白いので、そのような体験に繋がるようなかけらを商品に落とし込めたらいいなと思って企画しています。 

「青鯖ポーチ」「文学作品イメージティー」ができるまで

――「青鯖の缶詰風ポーチ」は、作家の交友関係に関連したグッズですね。

 「青鯖の缶詰風ポーチ」は、太宰治と中原中也のエピソードから着想を得て企画しています。近代文学に興味がある方の間では有名な話ですが、それを知らない人でもこの話を知ったら文学の世界に興味を持ってもらえるくらいとても面白いエピソード(※)なので、ぜひモチーフにしたいと思いました。

 ※太宰治とお酒を飲んだ中原中也が、酔っぱらって「青鯖が空に浮かんだような顔しやがって」と絡んだ、とされている

そこから、青鯖→鯖→鯖の缶詰、と文豪のカンヅメ(作家が締め切り前に自宅や旅館にこもり、執筆に集中すること)と発想をつなげていって、缶詰風デザインの一見お洒落なポーチにエピソードを落とし込んだ商品を作ったら、主張しすぎずに持ちやすいし、作家のファンの方々も喜んでくださるのではないかと思って企画しました。

文学作品や作家のエピソードに詳しくない方が見ても可愛いと思えて、日常使いできるようなデザインに落とし込めるよう、細部までこだわっています。

とても目を引くデザインの「青鯖のポーチ」

――「文学作品イメージティー」はどのように生まれたのですか?

 「文学作品イメージティー」は、読書で読み解ける範囲の先にある、作品の深い魅力を形にしたいと思って企画したものです。宮沢賢治の『注文の多い料理店』の序文で、以下のような言葉が出てきます。

けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。

つまるところ、「自分の書いた物語が、誰かの人生を構築する一部になる」ということだと私は理解しているのですが、そんな宮沢賢治の願いにすごく共感して。本は読んだ人に大きな影響を与える「人生を変えるアイテム」の筆頭ですよね。

 例えばノンフィクション作品であれば誰かの人生を追体験できたり、フィクション作品であれば想像もしなかった世界に出会えたり。読書から何かを得ているという感覚を、実際に目に見え、味や香りで楽しめる形に変換して、お客さまにお届けすることができたらいいなと思って企画しました。

文学作品を味や香りで楽しめる「文学作品イメージティー」

 文学作品に詳しい人には共感を、あまり詳しくない人には文学の世界への新しい扉をお届けしたいです。特にあまり詳しくない人には、「パッケージが可愛い」とか「教科書で見たことある」など軽い気持ちで、文学作品イメージティーを通して、本の世界に触れていただけるきっかけになったらいいなと思います。 

 ツイッターで8万以上の「いいね」がついたグッズも

女性の脚の描写にこだわった谷崎潤一郎の作品のヒロインをイメージした靴下

 ――どの年代に向けて商品を企画されていますか?

 特にどの年代の方へとは決めていないです。どなたにも親しんでいただきたいと思っていますが、SNSなどを見ると10代~30代くらいの女性が特に反応してくださっているように感じています。最近は『文豪ストレイドッグス』『文豪とアルケミスト』など、作家や作品を二次元に落とし込んだアニメやゲーム、漫画も人気で、そこで文豪や著作に興味を持った方たちが、フェリシモの商品を喜んでくださっているのかなという印象があります。

 出版関係のお仕事の方や、読書好きの方も商品を購入してくださっているのも、SNSを通じてこっそり拝見しています。今まで挙げた方々以外にも、もともと本を読む習慣がない方も含めて、さまざまな背景を持った方が手に 取ってくださっているのだなと感じることが多いです。

  

――Twitter8万以上のいいねがついた文学作品イメージティーに関する投稿をはじめ、どの商品もSNSで大きな反響を呼んでいますが、どのような心境でしょうか?

 読書は自分の中に、誰かが生み出した新しい感性を取り込むことだと思っていて、本を読む前と読んだ後では見える景色がいい意味で全然違うと思うんです。そのような、人生が良い方向に変わるきっかけとなる商品を作りたいと考えていますし、実際に自分が生み出せているのか? というのは常に自問自答しています。物をつくるのは本当に難しいことで、正直に言って苦しいことが多いです。

 でもSNSで、「このネイルをつけてカフェに行きたい」とか「このポーチに○○を入れて出かけたい」など、購入した商品の写真に添えて書いてくださっている方をお見かけすると、私の作った商品が、誰かの人生のどこかのタイミングで小さな花を咲かせていることが実感できて、それが少し奇妙でくすぐったく、同時に、諦めずに物づくりに取り組んで良かったなという気持ちになります。

万年筆の軸が壊れてもペン先にインクをつけて執筆をした、という太宰治のエピソードから生まれたネイルシール

――今後の目標を聞かせてください。

 文学作品や作家にまつわる史実って、普段から触れる機会がない方からすれば、すごくとっつきにくいイメージがありますよね。食べ物にたとえると、本当はすごくおいしいのに、調理方法が分からなくて敬遠してしまう高級食材のような感じでしょうか。

 「文学シリーズ」の商品企画は、何やらおいしそうな匂いはするけれど、詳しくは知らないから遠目で見るだけにしておこう……と思われがちな題材を、素材にぴったりの切り方から味付けまでを吟味して、考案したアレンジレシピを元に、食べやすい一皿を提案する作業だと考えています。

 原作や史実に対してリスペクトの姿勢は保ちつつ、その作家や作品、エピソードをより多くの方にも興味を持っていただきやすい形に落とし込むことで、「もっと知りたいな」と思っていただけるきっかけになる商品企画を目指していきたいです。

インタビューを終えて

 ひとつのグッズがきっかけとなり、文学への興味や共感が生まれる。ミュージアム部が手掛けるグッズは、単なるアイテムではなく、文学の世界へ誘う装置としての役割も大きいのだと思いました。そして、すごく素敵な循環が生まれているとも感じました。

 夏目漱石の『こころ』にはこのような言葉があります。

私の過去は私だけの経験だから、私だけの所有といっても差し支えないでしょう。それを人に与えないで死ぬのは、惜しいともいわれるでしょう。(中略)私は何千万といる日本人のうちで、ただあなただけに、私の過去を物語りたいのです。

 齋藤さんの「グッズを通じて、読む前と後で景色が変わる、読書のような体験を届けたい」という言葉が、私の中で重なりました。購入した方々からの多くの反響が示す通り、グッズたちは間違いなく誰かの人生の一部になっているのでしょう。(取材・文 みこ)

フェリシモミュージアム部の公式WEBサイト・SNS

WEBサイト→https://www.felissimo.co.jp/museumbu/

ツイッター→https://twitter.com/f_museumbu/

インスタグラム→https://www.instagram.com/felissimo_museumbu/

note→https://note.com/f_museumbu/

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