総理が妊娠したら育休は取れる?
先ほどの女性たちは、変わってほしい社会の風潮や、作ってほしい制度について、次のように続けます。
どんな職種であっても、育児や介護などで長期休暇が当然のようにとれる社会であってほしい。障害のある子へのサポートはあるが、そのサポートを受けるためにはたくさんの書類を毎年提出、交渉事もたくさんある。ワンストップでそれらを全て引き受けてくれる部署がないと、仕事が永遠に終わらない。(40代女性)
子どもの頃から「家事は母親(女性)の仕事」ではなく「家事は家族全員の仕事」という意識を持つ教育を求めます。そうすれば子どもが成長した時に自然と生きるスキルが身に付いていると思う。(50代女性)
私事ですが、筆者の家では洗濯、食器洗いやお風呂掃除などの家事を、父や私も含めた家族で分担して行っています。けれど以前は違いました。母は出産を機に、大好きだった旅行会社の仕事を退職し、そのまま専業主婦になりました。父はいつも夜11時ごろに帰宅し、育児休暇も取らず、家事は全く手伝わなかったのです。そして、それが当たり前でした。周囲にも専業主婦が圧倒的に多く、境遇は同じだったと思います。
ちなみに、男性の育児休暇取得率が高いノルウェーとスウェーデンには、「パパ・クオータ制度(スウェーデンでは、「パパ・ママ・クオータ制度」)」というものがあるそうです。これは、父親が育児休暇を取らなければ、休暇や給付金をもらう権利が消滅してしまう制度です。そのため、男性は積極的に育児休暇を取るようになったのでしょう。
育児は女性がするものという概念を根本的に変えるためにも、このような政策が打ち出されたのではないでしょうか。育児は、女性のみならず、男性もするものだという理解を深める必要があるのだと痛感させられます。
『総理の夫』では、最後に凛子が妊娠をします。もちろん総理大臣には育休制度などありません。総理大臣のために作られる法律はすべて、男性に適用される前提で制定されており、妊娠・育休など、想定外のケースだからです。
凛子は妊娠を機に辞任も考えます。ジェンダーギャップを無くすためには、育児休暇への理解を深め、妊娠や出産を機に仕事を続けることを諦め、離職する女性を減らす必要がある。そう身をもって示したかったからなのです。
終わりに
女性が総理大臣になることで、日本社会にどのような変化が起きるのか。『総理の夫』は、著者の原田マハさんが一国民として、また女性として、今の政治に警鐘を鳴らしているように見え、考えさせられる1冊でした。
いつか凛子のような真っ直ぐで力強い女性が、日本で初の総理大臣となり、女性目線で女性がより社会進出しやすい制度を確立することが可能になったら、ジェンダーギャップ指数の数値も改善されるのではないでしょうか。最後に、アンケートにご協力してくださった方々、ありがとうございました。(文・若松ひかり)