【前編】北大路翼×成宮アイコ コロナ禍で「伝説にならないで」って伝えたい

新型コロナウイルスの猛威は、世の中を一変させた。ステイホームや3密の回避、在宅勤務といった生活様式の変化だけでなく、感染者や特定の業種・職種への誹謗中傷、自粛警察の横行、生活困窮者や自死の増加など、ネガティブなことも少なくない。

 

そんな中で、表現者としての活動や思いにどのような変化が生じたのか、俳人・北大路翼さんと朗読詩人・成宮アイコさんに語ってもらった。

 

北大路翼

新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」家元。種田山頭火を知り、小学5年生より句作を開始。2012年、芸術公民館を現代美術家・会田誠から引き継ぎ、「砂の城」と改称。句集に『天使の涎』(第7回田中裕明賞受賞)、『見えない傷(春陽堂)』、著書に『生き抜くための俳句塾(左右社)』『廃人(春陽堂書店)』など。

成宮アイコ

朗読詩人・ライター。機能不全家庭で育ち、不登校を経験。社会不安障害・ADHD。主に”生きづらさ” 、”アイドル”、 “社会問題”についての文章を書いている。好きな文学は風俗写メ日記、好きな詩人はつんく♂さん。夢はアイドルさんに作詞提供。著書に『あなたとわたしのドキュメンタリー(書肆侃侃房)』、『伝説にならないで(皓星社)』。

 

目次

リアルイベントがなくなった虚無感

 

――まず、お二人の関係について聞かせてください。

 

北大路

面識はほぼないよね。一回会ったことがあるくらい?

 

成宮

そうですね。ライターの村田らむさんが主催で、私がMCで参加している「ゲンバシュギ」というイベントに、一度ゲストに出ていただきましたね。実は、北大路さんの作品はもちろん顔ファンでもあるので、ゲストに来るって聞いたとき、ちゃんとしゃべれるかな……と思った記憶があります(笑)。

 

北大路

そうなんだ(笑)。僕も朗読が好きだから、(朗読ライブなどの活動をしている)成宮さんのことは気になっていました。

 

成宮

そうですか、うれしいです!

 

 

――お二人ともイベント出演を積極的にされていましたが、コロナ禍でどのような影響がありましたか?

 

北大路

やっぱり、イベントはほぼ中止になっちゃったね。僕は今年、『見えない傷』『加藤楸邨の百句』の2冊を出したんだけど、両方ともイベントができなかった。人を集められなくなったのが結構ショックでね。手売りで直接本を渡したり、感想を聞いたりすると、「やっと本を出せたな」って実感があるんだけど、それがないから、ものすごく空しかったな。

 

成宮

私も10月に、詩集『伝説にならないで』から4曲を収録したEP『伝説にならないで』をリリースしたんです。もともとは4月に出して、ツアーも回る予定だったのが、緊急事態宣言が出て中止になってしまって。EPはオンラインストアで販売しているのですが、直接ライブで朗読をして、対面で販売することができなくなったのは、壁に向かって「新しい作品を出しました」って言ってるみたいな虚無感がちょっとありました。

 


北大路

そうなんだよね。句会も、僕たちはオンラインでもやってるけど、集まりづらくなってしまった。集まってしゃべるのもガス抜きになっていたけど、今はテレビだけが友達っていうお年寄りが増えているみたいで、かわいそうだよね。いまからオンラインを覚えるのも大変そうだし。人と会わないと一気に老けこんじゃう。

 

俳句は座の文学だから、人が集まったらいけないってなると、活動のベースが壊された感じがする。俳句を作ることさえむなしくなってきてしまった。Twitterも止めちゃったし。

 

成宮

アカウントがなくなってましたね(笑)。

 

北大路

みんな嫌になっちゃった。ストレスで酒の量も増えたし、そういう意味ではちっちゃな自殺だよね。一歩ずつマイナスな方を選びがちになってしまう。

 

成宮

私がEPを出したのも、伝説にならずに済む世界になってほしいと思ったからです。私の周囲でも、死にたいという声を聞いたり、SNSでは自殺配信がRTされたり。コロナに加えて、有名人が命を絶ったっていうニュースで、死に引っ張られがちだなと感じました。

 

本当はもっと発売延期を考えていたのですが、アレンジをしてくれたエンジニアの方から、「今届けないと、間に合わない人もいる」って言われて、確かにそうだなと。音源なら、私が現場に行かなくても届けられるので。

自分を守るために他人を攻撃する人々

 

――日常生活や気持ちでは、どのような変化がありましたか?

 

成宮

私、コロナが広まり始めた最初のころは、すごく幸せだったんです。自分だけじゃなく、みんなが強制的に頑張らなくていいのがとても楽で。置いていかれることもないし、ライブや朗読のプレッシャーからも解放されて、一カ月くらいは“ふわふわランド”みたいな感じでした。

 

でも、心が動かない状態って安定しているけど、何かに似てるなと思い始めて、よく考えたら、「これ、鬱だ!」って。作品を作ることは、自分の心が傷ついたものごとの原因を探しに行くことなので、あまり幸せじゃない行為かもしれないですが、逆に穏やかすぎても鬱になるって気づいて、空しくなりましたね。北大路さんは?

 

北大路

僕は余計怒りっぽくなった。もともと人間不信だったけど、それがかなり増した感じ。コロナ禍で人間の嫌なところばかりが目立つようになってきた。みんな自分勝手過ぎるよ。自分勝手というのは、マスクをせずに出歩くというような低いレベルの話ではなく、むしろそれを取り締まる側を自分勝手だと呼んでいる。

 

僕、ポリコレみたいなのが大嫌いなんだけど、正しいことって言うのが恥ずかしいじゃない。言わずもがなのことが正義であるべきなのに、わざわざ声高に言うっていうのは、恥じらいがなくて嫌だな。

 

成宮

声高に言いたがるし、便乗したがる。関係ない他人のことなのに。

 

北大路

人のセックスの話ばっかりしてさ、くだらない。いいじゃん、芸人が不倫するに決まってるじゃねえか(笑)。ああいうのは、自分に矛先が向いちゃうのが怖いから、他人を攻撃し続けているんだろうな。

 

成宮

それは、すごく感じます。例えば、座間事件のこともいろいろ考えているけれど、でも一言では言い切れないし、140文字ではとても足りなかったからツイートをしないでいたら、「何も思わなかったの?」みたいに言われることがあるんです。瞬発力と明確さをもって表現しないと、何も考えてない人扱いされるのかってびっくりした。

 

北大路

言ったら言ったで揚げ足取られたりするっていう(苦笑)。総監視社会だから、その風潮はこれからますます強くなると思う。そういうのがプレッシャーになって、苦しさになるのかもしれないな。

 

成宮

私も昨日ライブだったんですけど、宣伝が難しいなって。だから、前に宣伝したのを一回リツイートして、自分でビビッて消しました(笑)。

 

北大路

「あいつら、こんな時期に人集めてるぞ」って言われるからね。身内だけならいいけど、オープンで人を集めちゃうとさ。そういうのを面白がる人間がまたいるんだよ、監視してるやつが。楽しそうなことやってると、ひがんで文句言ってくるんだよね。

 

成宮

正解はひとつではないのに。

 

後編に続く

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