4人目:リア(37歳/スペイン)
「スペインを出てイギリスのロンドンで働いていましたが、ストレスで仕事を辞め、1年前に旅に出ました。タイやインドネシア、マレーシアなど東南アジアを旅していて、ベトナムには今2ヶ月います。ヨーロッパよりもアジアが私の居場所だと感じますね」
持ってきた本
「King Kong Theory」Virginie Despentes 著, Stephanie Benson 訳
※日本語版なし
フランスの作家、映画監督であるヴィルジニー・デパント。本作「キングコング・セオリー」では、自身のレイプ被害、売春、ポルノ業界での経験をベースに、今を生きる女性の性について、ユーモアや怒りを交えて綴っている。
「この本は、ロンドンで参加していたフェミニスト集会の仲間がプレゼントしてくれました。スペイン語でメッセージが書いてあります。とてもいい本ですよ」
力強いデザインの表紙だが、一体どんな本なのか?
「作者は17歳でレイプに遭って、その経験に打ち勝つために、売春婦になることを選択したんです。変わっているかもしれませんが、それが彼女の見つけた方法だったんですね。いま彼女は50歳で、作品は映画にもなりました。彼女のことが大好きな人がいる一方、とても嫌う人もいますね。彼女の言うことには理解しがたいところがあるんです。私も彼女の意見に同意できるときと、全く同意できないときがあります」
リアはこの本を何度も繰り返し読んでいるという。
「作者の人生における、沢山の哲学が書かれています。過去の態度や行いについて自ら説明しているんですが、これは女性として生きる上でとても役に立つと感じました。例えば女性が一人旅していると、男性から性的な嫌がらせを受けることが度々あります。私も何度も経験していますが、そんな時に女性としてのパワーを取り戻すために、この本を読み返しているんです」
中でもいちばん好きな箇所は?
「女性にまつわる形容詞について書かれている箇所です。例えば、太っている女性に対して、『太っていてもあなたは”美しい“』と肯定的に形容することがありますよね。でもそこで作者は、『そもそも、なぜ女性は美しくなければならないのか?』と問いかけます。当たり前だと思っていたけど確かにその通りだな、と驚かされるんですよ」
彼女はこの本を、すでに4人の女性旅行者に貸したという。ロンドンで手渡されたこの本の精神は、世界の女性へと確実に伝播している。
リアは普段、どんな本を読むのだろうか?
「野生動物について書かれた本が好きですね。霊長類との交流を描いた、フランス・ドゥ・ヴァール(オランダの動物行動学者)の「共感の時代へ」や、ダイアン・フォッシー(アメリカの霊長類学者)の『Gorillas in the Mist』(映画『愛は霧のかなたに』の原作)などです」
本が大好きなリアは、手が塞がっているときはオーディオ・ブックで聴くこともあるという。一方で、電子書籍はけして読まないと断言する。彼女にとってこれらの媒体の違いは何なのか?
「例えばビタミンを摂取するときにも、いろんな手段がありますよね。サプリメントから摂ることもできるけれど、パッションフルーツやオレンジを選ぶこともできる。摂れる栄養素が同じでも、フルーツの方が楽しめるでしょ!」
深く納得してしまった。フルーツを選ぶ彼女は、どこかへ出かけるときもGoogleマップではなく紙の地図を見るという。
最後に、あなたにとって本や文学とは?
「冒険の世界への交通手段ですね。本を読めば、宇宙や存在しない場所など、自分の行きたいどこへだって旅することができます」
リアは取材後、「あなたも読むべき」と言って筆者にこの本を貸してくれた。いつの日か世界のどこかで彼女に再会し、感想と共に返却できることを楽しみにしている。