前橋文学館・萩原朔美館長が禁断の質問!?「月に吠えらんねえ」清家雪子先生との対談レポート

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朔太郎は“なんだかよく分からない奴”だった

 

続いて、話題は朔太郎と前橋について。朔美館長によると、朔太郎が存命だった時代、前橋の住民にとって、「萩原先生」といえば萩原医院の先生(朔太郎の父)だったという。

 

息子の朔太郎はというと、「何だかよくわかんない、うろうろ歩いているやつという認識。でも、母親(※作家・萩原葉子さん。萩原朔太郎の娘、朔美館長の母)にとってみると、地元でありがたがられた医者の先生は教科書に載らず、遊んでいた朔太郎が教科書に載る、っていう逆転があった」と振り返った。

 

そして、朔美館長が働かずに芝居をしていたことを、葉子さんがとても喜んだと明かし、「僕にも表現の道に行くといいと思っていた。東京国際版画ビエンナーレで長岡現代美術館賞をとったとき、めちゃくちゃ喜んでいたね。この人は一生遊んで表現するんだと。だから30歳で会社を始めたときは怒られちゃったね(笑)」と萩原家の秘話も明かされた。

 

さらに、清家先生から朔美館長への質問も。「萩原葉子さんの本を読んではいるのですが、基本的にフィクションのものは参考文献に書いておらず、これは本当だと判断したものだけ入れているのですが……だいたい本当なんですか?」と切り込む清家先生。

 

それに対し、朔美館長は「かなり盛っているんじゃないかな」と暴露。「いじめられたと盛んに描いているけど、作家は『小石につまづいただけで全治3か月』みたいな、被害意識が強かったりする。だからおふくろも相当に盛って、自分を哀しくさせるためにそう書いたのでは」と笑顔で語った。

 

対談後は参加者からの質問コーナーも設けられ、会場はさらにヒートアップ。名残惜しくも対談は終了時間に。とってもレアで贅沢な1時間半は会場の熱量たっぷりなままに幕を閉じた。

 

また、本来は対談のみの予定だったが、なんと清家先生のご厚意によりサイン会が行われた。なんというサプライズ……! 急遽設けられた交流の時間に、集まったファンの皆さんも感動している様子だった。

 

 

今回の対談で印象的だったのは、読者からの質問コーナーでのこと。『月に吠えらんねえ』を清家先生がジャンル分けするなら?」という質問に、清家先生は「ジャンル分けするなら文学ファンタジー。決して伝記物ではないです。(インスピレーション元の作家の)ご遺族、ご親族の方の気持ちを無下にしたくないという思いがあります」と答えられていた。

 

「あくまで物語の中でのキャラクターということを強調したい。だからこそ、間違っても伝記物ではないし、モデルにもしていないという部分は、誤解されたらしつこく訂正しています。ただ、ご遺族やご親族一人一人に許可をいただくのは、時間的な制約もあって不可能ですが、配慮は必要だと思っています」(清家先生)

 

作品が及ぼす影響についても、真摯に向き合おうとする清家先生の志が、真っ直ぐに伝わってきた。一読者としても心に刻んでおきたい言葉だった。

 

また、朔美館長の、「作品に作家の実人生が反映されている、と思い込む人もいますよね。でも、そんな風に作品の読み方を狭めちゃいけないですよね」という言葉も印象的だった。作品は作品として成立した時点で、独立した力を持つものという考えは、私も大事にしたい。

 

参加者の方の質問もディープで非常に興味深かった。様々な読み方が出来る漫画だからこそ、読者の数だけ着眼点がある。例えば「犀くんの乗っている空母の名前」(※清家先生によると「瑞鶴」)とか、「そんなところに注目したことがなかった……!」という観点があることを知れた。

 

『月に吠えらんねえ』には、まだまだ気づけてない部分がたくさんあり、読み直すたびに新たな発見ができることが魅力だと、改めて感じた。

 

そしてなんと今回は特別に、対談を終えた清家先生よりコメントをいただきました! 清家先生ありがとうございます!

 

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