【後編】文学館に必要なのは「ハードロック」 萩原朔美館長に聞く文学館革命

目次

 

賛否を巻き起こした「変態シール」の意図

 

――昨年開催された、「パノラマ・ジオラマ・グロテスク――江戸川乱歩と萩原朔太郎」の展示の際は、入り口のガラスに大きく「変態だっていいじゃない」というキャッチフレーズのシールを貼り付けていましたね。

 

いま、文学館に必要なのは「ハードロック」だと思う。人の心をダン! ダン! ダン! って強く叩く。「起きてください!」って。そんなハードロックが前橋文学館に必要だと思う。

 

だから強いキャッチフレーズで「変態だっていいじゃない」ってやったんだけど、大反対されたね。「江戸川乱歩を変態と言わないで誰を変態と言うんだ」と押し切ったよ。もしかしたら、そこで興味を持ってくれる人がいるかもしれないじゃない。

 

今まで通りのことをやっていたら、誰も来なくなっちゃうよ。従来のやり方をよしとしている人には「そんなことをやって」と怒られる。

 

ただ、6割けなされたら私は成功だと思っている。演劇だって、一番新しい演劇は、6割クソミソに叩かれる。実は今、そんなにけなされていないんだよね。そういった意味ではまだまだ。もっと怒られようと思う(笑)。

 

昨年開催された萩原朔太郎×江戸川乱歩の企画展のチラシ。「変態だっていいじゃない。」というキャッチフレーズが反響を呼んだ。

 

――展示だけでなく、建物自体にも工夫をするという発想がすごく大胆で挑戦的ですね…

 

建物というのは、「威嚇」と「求愛」の二つしかない。「威嚇」というのは、神聖な建物とかね。甍(いらか)がドーンとあって、大きな像があって、「恐い」と思わせる。大きなものを作らないと人はありがたがらないからね。

 

それに対して、「求愛」とはレストランのように、「いらっしゃい」という空気を醸すこと。今まで文学館は「威嚇」してた。だから私は、「文学館は求愛のサインが入り口になければおかしい」という話をしたの。

 

レストランと同じように入り口に設置したブラックボードや、バナー(旗)、朔太郎像横の朔くんのパネルも、「求愛」の意思表示の意味がある。

 

 

 

――攻めまくってますね(笑)

 

これで5年後に来場者が増えていて結果が出ていたら、「あいつ、やったな」と思われるだろうけどね。誰かが最初に目立つようにやった方がいいなと思って。ここが成功例になればいい。

 

僕はお得なんだよね。朔太郎ゆかりの文学館で、朔美館長だから誰も文句言えないわけ。「孫がやってるんだからしょうがねーや」って(笑)。だから色々出来る。

 

前橋全体がもっと盛り上がるには

 

――文学館に人が増えれば、周辺もにぎわうようになりますよね。前橋全体が、もっと盛り上がればと思います。

 

広瀬川沿いにブックカフェがほしいなと思っているんだよね。この近くに本屋さんがないからね。文学館だけじゃだめ。町全体で盛り上げなきゃ。

 

市外からも人が来る仕組みのお手本として、金沢市は理想的。金沢美大と地域の住民、行政が一体となっていて、立派な観光地になっている。

 

黒磯(栃木県)もすごい。前橋と同じく新幹線が通らない駅で、一時期シャッター街だったんだけど、今は県外のお客さんで賑わっている。「shozo cafe」というお洒落なカフェが出来てから、がらっと変わった。

 

今はかっこいいお店がたくさんある。若い男の子がやってるお洒落な古道具屋とかね。建物の外見は古いままで、「洗濯屋」なんて書いてある古い看板がついているまま。でもそれがかっこいい。壊しちゃダメなんだよね。

 

世田谷の松陰神社通り商店街も、昔は古い商店街だった。そこでかっこいい古本屋さんができてから、今や若者のお店がたくさんある商店街に生まれ変わった。

 

だからね、前橋も変われるチャンスがある。物件の所有者が、どんどん若者に物件を提供してあげてほしいと思う。

 

 

――月吠え通信も微力ながら、前橋の活性化に協力していきます。お忙しい中、ありがとうございました!

 

朔太郎の詩にも登場する広瀬川

 

 

ユーモアも交えつつ、文学館の在り方に疑問を呈しこれからのビジョンを語ってくださった朔美さん。既存の文学館の仕組みにとらわれず、今の時代・これからの時代に必要な要素をどんどん取り込んでいく。

 

もしかしたら、文学館の変革期の真っ最中にいるのかもしれないと思わせられる。

 

ときに強い言葉を使われていたのも、文学館に対する真摯な思いの表れということが伝わってきた。お話しを聞いていて、これからも「文学館でこんなことができるのか!」といった驚きを発信していただけるのではと、ますます楽しみに。

 

『月に吠える』刊行後100年を迎えた今、新たな文学館時代幕開けの予感から目が離せない。(取材・文 ささ山もも子)

 

前橋文学館

住所:群馬県前橋市千代田町3-12-10

休館日:水曜日・年末年始(祝日の場合はその翌日)

観覧時間:午前9時-午後5時

TEL:027-235-8011

HP:http://www.maebashibungakukan.jp/

 

朔太郎、朔美館長、朔くんの夢の3ショット!

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