朔くん、白さんが福岡へ!「月に吠えらんねえ」清家雪子先生の書き下ろし作品が蒲原有明展で展示

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高校生の一言から実現した清家先生の書き下ろし作品

 

 

そして終盤に、清家雪子先生による描き下ろし作品のコーナーが登場する。漫画の内容は、朔くんと白さんが有明先生の家を訪ねるというもの。有明先生の家での3名の会話は、萩原朔太郎の随筆「蒲原有明に帰れ(※)」がベースとなっており、評論に見られる朔太郎と有明の微妙な関係性が見事に表現されている。この作品が開催期間終了とともに、日の目を見ないことになるのかと思うと本当に惜しい……。

 

※「蒲原有明に帰れ」

萩原朔太郎が「月に吠える」を刊行する際、序文を蒲原有明に依頼するべく、手紙を出したが返事は来なかった。その理由は、朔太郎が有明の詩を批判したという、誤った情報が本人に伝わったためだった。朔太郎はそれは誤解であるとし、改めて有明の功績や才能をたたえている。

 

ところで、なぜ清家先生の描き下ろし作品を展示することになったのか。渡邉さんによると、蒲原有明展を企画したものの、若者が集まるとは思えない。ではどうしようかと考えたとき、2~3年前に親子でやって来た高校生とのやり取りを思い出したのだそう。

 

「その高校生に、どんな本を見たいか聞いたら、『山羊の歌』とか『月に吠える』って言うんです。お母さんとキャッキャウフフしながら。で、最終的に蒲原有明の詩集を見たいって」

 

「まさか、蒲原の名前を高校生が知っているなんて!」と思った渡邉さん。どこで蒲原を知ったのか聞いたところ、『月に吠えらんねえ』の名前が出てきたのだった(3巻に蒲原有明が登場している)。そこで、清家先生に書き下ろし漫画の依頼をしたところ、快諾いただいたのだそう。「漫画家の方に依頼をするのは資料館として初めてでしたが、お受けいただいて感動しましたね」と山部さんは振り返る。

 

作品を描いていただくにあたって、細かい指定はなし。ただ一つお願いしたのは、「蒲原有明に帰れ」を元に、朔くんと白さんが蒲原有明の話をしているという設定だけだった。

 

6枚の漫画に企画展のすべてが集約されている

 

 

完成した原稿を初めて読んだときの感想について、渡邉さんは「私がこの企画展をつくるうえで、めちゃくちゃ(資料を)読み込んだ内容が、この6枚の漫画に集約されているなと」と感動した様子で語る。

 

「蒲原の詩って、当時難解と言われていて。誰も理解できない世界だったんですね。よくわからないものを作り、『もっとよくなるはずなんだ』と言いながら改作していくところが、すごく的確だなと。そもそも、蒲原の詩って絵に表現しにくいと思うんですよ。それをきちんと表わしてくださっているなと」

 

これまで定型詩が中心だった日本の詩壇。蒲原有明のおかげで新たな表現が生まれ、大きく前進した。作品には、そういった蒲原の立ち位置や成し遂げた功績がきちんと描かれている。作品の終盤には、有明先生が得体の知れないものを作り、自らの手でそれを壊す描写がある。それも、蒲原の作風や、創作に対する姿勢、苦悩を表しているのでは、と渡邉さんは分析する。

 

また白さんが、有明先生に「いい酒が手に入ったので」と訪ねていく描写にも、「蒲原が酒好きだったことを知っているんだ!?」と驚いたという。それもそのはず。『月吠え』は小ネタにもきちんと裏付けがあり、読者はネタ元を隅々まで探りたい、という好奇心を刺激される。6Pの漫画にも、その魅力がいかんなく発揮されているのだ。

 

御年80歳を越え文学に造詣が深い館長も、清家先生の漫画を見て「これはなかなかよく描けとる!」と大絶賛。地域の詩人会の方からも好評だったという。

 

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