「用意された食卓」に隠された秘密を初公開!カニエ・ナハ×谷郁雄トークイベント

 

そして、カニエさんは、詩集『用意された食卓』に謎が隠されていることを告白。「本のカバーを外すとヒントが隠されています」という言葉通り、本の表紙と裏表紙には、写真家ニセフォール・ニエプスの作品『用意された食卓』が印刷されている。この写真が詩集のタイトルになっていたのだ。

 

ニエプスの写真を起点に、さらなる秘密が明らかとなっていく。「ここに収められているすべての詩篇は、写真界を彩ってきた写真家達に向けて書いています」と、カニエさんは続ける。

 

例えば「野道」は星“野道”夫、「亀」はジュリア・マーガレット・“キャメ”ロン、「河童」はロバート・“キャパ”。実は詩篇のタイトルに写真家の名前が潜ませてあったのだ。これには観客たちだけでなく、谷さんも驚きを隠せない様子だった。

 

 

一方の谷さんの作品も、写真と切り離せない関係にある。詩と写真を一緒に載せ、それを一つの作品とするスタイルをとっているのだ。小野啓といった写真家から、クリープハイプの尾崎世界観やリリー・フランキーなど、様々な表現者とコラボしている。このスタイルが始まったのは、10年以上前のことだと谷さんは語る。

 

「思潮社から何冊か詩集を出していたんですけど、なかなか読者が広がっていかなくて、もどかしい思いをしていました。そのときに、詩集の専門出版社じゃなく、普通の出版社に持ち込んで、企画として通るようなものじゃないと、もう本は出さないと決めたんです」

 

そこで谷さんは、角田光代さんの小説や江國香織さんの詩集を出していた理論社に着目。詩とイラストを送ったところ、「イラストはやめましょう、写真はどうですか」と提案され、現在のスタイルが生まれたという。

 

「それまで僕の詩集って、自分でお金作って出してたので、(発行部数が)400部とかだったんですよね。でも急に(理論社からは)4000部って言われて。そんなに絶対売れないと思っていたら、出すときに『やっぱり5000部にしました』と言われました(笑)。でもいろんなところで平積みされて、あっという間に売れちゃったわけです」

 

なかなか読者に届かないものでも、ちょっとした工夫で距離を縮めることができる。そう気づいたときこそが、詩を書く上での転換期になったと谷さんは振り返った。

 

お互いに「対極にいる存在」と認め合う二人は、“詩”だけではなく“写真”という共通点も持っていた。イベント名の副題として「詩と写真をめぐるトークと朗読」が付けられているが、そこに“写真”というワードが入ってくるのも納得だ。

 

「分かりやすさ」と「難解」。作品だけ見れば交わることのないようなカニエさんと谷さんだが、二人から発せられるゆるっとした雰囲気に、会場も終始和やかなムードだった。(取材・文 小糠あお)

 

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