故郷に帰るような気持ちで、東北に通い続けたい
ー『それでも、海へ 陸前高田に生きる』を先日出版されました。写真集ではなく、写真絵本にされた理由をお伺いできますか。
小さい頃、母が月に300冊の絵本を読み聞かせてくれました。それは大人から子どもに感性を受け継ぐ時間であったと思います。大人と子どもが時間を共有できる絵本というかたちで、自分が取材で出会った人たちのことを伝えたいと思ったのがきっかけです。
ー菅野さんの孫である修正(しゅっぺ)くんが、漁師町で育った子だなと感じたエピソードはありますでしょうか。
しゅっぺなりに、震災で怖い思いを経験しています。でも心が折れかかっていたおじいちゃん(菅野さん)に対して、「じいちゃんが獲った魚がもう一回食べたい」と彼は言いました。
海の恵みをまた食べたいと言ったことに、生まれた時から自然に海と同じ空間を分かち合い、それがしゅっぺの感性そのものになっているんだと分かったことは印象に残っていますね。
ー陸前高田の人にとって、海はどういう存在だと思われますか。
一概には言えませんが、漁師町に生きてきた人たちにとっては、自然は人の命を奪っていくものだけれども、怖いだけではないということをよく聞きます。自分たちに恵みを与えてくれるものなんですね。
怖がるだけではなく畏怖の念を持ち、自然の力を認めた上で自分たちはどう生きていくかを考える。多くの人にとって、海は同じ時間をともに生きる対象なんだと思います。
ー東北との関わり方など、今後の取り組みを教えていただけますか。
写真絵本での出版は、これからもしていきたいです。自分の中では、震災から5年が経っても節目は感じていません。これからようやく商店が建って、町も変化していくと思います。それと同時に、人の変化も見続けたい。
写真を撮った子ども達が成人する時、この町はどうなっているのでしょうか。自然と自分が故郷に帰るような気持ちで、東北に通い続けようと思います。この5年で出会った人との縁を大切にしたいですね。
ー安田さん、ありがとうございました。
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東北に甚大な被害を与えた津波。「人は海を恨むだろう」と安田さんは思ったという。しかし東北の人たちは、海とともに再び生きようとしていた。安田さんが撮りためてきたのは、そんな未来に目を向ける人びとの姿だった。
「安田さんと知り合って一番嬉しかったのは、ここには自然や美味しいものが沢山ある、特別なところに自分たちが生きていると気づけたことです」と一男さんは話していた。
『それでも、海へ 陸前高田に生きる』は、写真絵本といえども非常に臨場感のある写真にあふれている。安田さんが培った信頼関係のもとに撮れた作品だということが分かるだろう。震災から5年。東北の復興に向けた一つの答えを、この写真絵本が私たちに示してくれている。(取材・文 平賀たえ)