現代社会の闇に容赦なくスポットライトを当てる注目の作家・新庄耕さん。自身の小説のジャンルを「ドロドロ系」と表現する通り、デビュー作『狭小邸宅』では不動産業界の理不尽な環境でもがく若者の姿を、今年1月に発売された新作『ニューカルマ』ではマルチネットワークビジネスの実態を毒々しく鮮やかに描き出し、どのシーンにも読者の胃を傷めつけるほどのリアリティが備わっている。
「なぜにこんなにリアルな闇を描けるのか?」
「もしかして結構危ない人だったりして?」
その秘密に迫るべくインタビュー決行。それぞれの題材と新庄さんとの繋がりにとどまらず、作家としての葛藤、担当編集の方とのエピソードまでとことん聞かせていただいた。
“あるある小説”にならないようにするのが難しかった
―そもそもネットワークビジネスを題材にしたのは、どうしてですか?
大学時代に彼女から(ネットワークビジネスに)誘われたことは僕の中で大きい事件でした。一方的に惚れてたんで、5万円分くらい買ったのに、結局フラれちゃって。
それで一旦関わりは終わったんだけど、(新卒入社した)会社を辞めて、どこにも所属していない状態のときに、いろんなやつと出会ったんです。そこでどっぷりと(マルチに)ハマっているやつを見て。
『狭小~』(※『狭小邸宅』(集英社)…新庄さんのデビュー作)を書いたあと、何を書こうか考えてるときに、パッとその時の経験が頭に思い浮かんだんです。
―自分自身の体験から生まれた題材だったのですね。
大学時代も、都内の区民ホールに行ってセミナーの光景を目の当たりにしたし、最近もスタバで勧誘シーンを聞いたし。素材はあったんです。すごく描きやすいし、題材もエッジ立ってるし、(他人にネットワークビジネスの)話をしても盛り上がるし。
でもそれだけだと、ただの「あるある小説」にしかならないって途中から気づいて。それだと「あー」で終わっちゃう。今回は素材は踏み台であって、その先にあるものをうまく伝えるのが課題でした。
―どう乗り越えたんですか?
もがく。書きまくる。
―かなり直したんですか?
「直した」というか、もはや「書き直した」って感じですね。大体の設定は変わらないけど、キャラクターも展開もストーリーも違う。(題材を決めてから完成までに)すごくかかりましたよ。3年、4年。