【前編】『月に吠えらんねえ』清家雪子先生も登場!石川近代文学館「うたえ!□街の住人たち」

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展示の配置が絶妙

 

ここで筆者が注目したのはケースの中に並んでいる犀星の初版本。右から『性に眼覚める頃』、『抒情小曲集』、『愛の詩集』、『神々のへど』…これはどこかで見たような……?

 

ま、まさか………朔くんの部屋と同じ並び…?!Oさんに聞くと、「そうなんです!!」とのこと。やっぱり!!!!!

 

第2話で朔くんの部屋にずらりと並べてあります室生犀星の作品たち、これと同じ並びなんですよーーーー!!!!(※単行本1巻第2話101ページ1コマ目)見つけた瞬間大興奮しました。

 

「途方もない作業をいかに楽しくするかも大事で、こういう部分にも気づいてもらえると嬉しいですね」とOさんは話す。よく見てみると、例えば三好達治『測量船』の隣に萩原朔太郎の『氷島』が置かれており、ミヨシくんと朔くんの諍いを想起させる。

 

また、秀逸なのは14話の出力原画の展示ブース。犀がハルコに「前に教えた動物の詩集/最初はこんな詩なんだ」と言い、『動物詩集』の序詞を読むシーン。そのページの隣には、実際に『動物詩集』の初刊本が置かれていた。このように、ひとつひとつの展示物の配置にストーリー性があるのが見どころである。

 

最も印象的だったのは、折口春洋の短歌軸にまつわるエピソードだ。『月に吠えらんねえ』では「はるみくん」としてお馴染みの折口春洋。今回初めて、春洋が硫黄島に出兵する前に書かれたという短歌軸が公開されている。ここでOさんから、短歌軸の公開に至るまでの経緯が語られた。

 

この場で筆者が詳細を語るのは相応しくないと思うので割愛するが、短歌軸の所有者の方には大変な葛藤があったこと、Oさんをはじめ石川近代文学館の方々の真摯な熱意が今回の公開に繋がったことが明かされた。そのひとつひとつの思いの深さに涙する来場者も少なくなかった。

 

 

このようにギャラリートークでは、1時間強たっぷり展示に関わるエピソードが紹介された。作品や作家たち、それらに関わる多くの人の感情をより活き活きしたものとしてぐっと立体的に感じるきっかけとなる贅沢な時間だった。(取材・文 ささ山もも子)

※後編に続く

 

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