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“指先に神を宿しているように星座早見の文字盤まわす”
――『冬の星図』より
現代の短冊=スマホ!?――日常のディティールを持ち帰る
―受賞作『冬の星図』を読んだ時の背景は、どのようなものでしたか?
それはたぶん、僕の人生を語ることになりますね(笑)。僕が「表現」という行為に興味を持ったのは、『機動戦艦ナデシコ』というアニメがきっかけだったんです。
中3のときにその劇場版を見て……作品の内容もそうなんですけど、それらの日本のアニメーションで描かれている「日常の中のディティール」に対して、すごく愛着がわいて。たとえば、風景の中に信号があったり電柱があったり、そういうもの。
映像制作をはじめたことで、そういうものを表現できるようになって、すごく肌に合ったんですよ。そこが僕のコアな部分なんです。『冬の星図』には、「日常のディティール」に対する愛着がすごく込められている。それを表現したいっていう思いはかなりありましたね。
―『冬の星図』には、天体のモチーフが頻出しますよね。
単純に天体が好きなんです。自分で天体観測に行って写真を撮ったり、そういう実体験がけっこう出てると思います。それをそのまま詠むだけじゃなくて、ちょっと空想を膨らませたりはしてるんですが、やはり実生活を通してつかんだ実感というものは大きいです。
―『冬の星図』は、どこで生まれたんでしょうか?
部屋で生まれました(笑)。部屋と……長野の野辺山っていう、天体観測で有名なところ等で、実際に星を観たときの経験ですね。野辺山の空気を部屋に持って帰って、あっためる、みたいな。
―それはお一人で?
そうですね。一人で旅して、写真撮ったり。僕は、創作のときはけっこう孤独ですね。
―いろんな場所で発見した空気感やディティールを部屋に持ち帰って、歌を詠まれるんですね。外で発見したことは、メモに取ったりしますか?
はい、スマホで取りますね。歌人って、短冊とか持ってるイメージじゃないですか(笑)。いまはスマホとかでやる人が多いんじゃないかと思いますけど……スマホと短冊って、なんか形似てますよね。現代の短冊ってスマホなんじゃないかと思います(笑)
詠むときに意識していること
―『冬の星図』は五十首の連作ですが、ストーリーや一貫したテーマなどは意識されましたか?
かなり意識しましたね。「起承転結」っていうのを、連作を作るうえではすごく意識しています。というのも、僕が最初に表現を始めたのが映像で、映画の監督とか脚本をやっていたので、自然と「映画の脚本」に近い作り方をしてるかな、と。
僕の場合、あるシーンの断片が頭に浮かぶんですね。それを表現するためにはどう構成したら効果的か、っていうのをすごく考えています。
―では、言葉の使い方などについては、意識していることはありますか?
奇をてらって変な言葉を使わない。性的な言葉や暴力的な言葉等の激しい言葉を使うと目立つ、っていう風潮があるじゃないですか。それは使う人のスタンスなので、その人の思いを表現する上で必然性があれば、使って良いとは思うんですが……
僕はそういうスタンスではなくて、日常の中で使うような、普遍的な親しみやすい言葉でつくったほうが人に届きやすいんじゃないか、って考えています。
―伊波さんの歌は、短歌の定型「五七五七七」を徹底的に守っていますよね。
意図的です。歌詞って、一字でも違うと全然変わるじゃないですか。たとえば、「一番は詞と曲のはまりがすごくいいのに、二番でちょっともつれてるな」とか。あれ、気持ち悪いので(笑)。
短歌を短歌たらしめてる要因って、定型だと思うんですよ。それをないがしろにするなら短歌じゃなくてもいいんじゃないかって思うので、そこはすごい大事にしてますね。