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初出はどこ?著作権者は誰?掲載までの試行錯誤
―単行本の巻末にものすごい数の参考文献が記載されています。文献を読んでから、ストーリーのもともと考えていた流れを変更する、ということはありますでしょうか。
そういったことは、ないですね。作品だけは全部読んでいたので、ストーリー自体はそこから出来た話で、研究書とかは読んでいなかったんです。でも、なんというかあまりにも(的を)外れたことをやっていたら怖いというか……だから研究関係も読んでおこうと思ったので。
話が出来てから、(研究書を)読み始めて。そこで結構頭を整理することがありましたね。「ぼんやりと頭のなかで浮かんでいたもの」の整理の道筋にはさせてもらっています。
―もともと頭の中にあったものをよりクリアにするための補助、みたいなものなのですね。
そうですね。はじめは、こう夢みたいな、ぼやぼやっとしたものなんですが(笑)、それをそれなりに論理づけるというか。
―資料読み→作品化→掲載までの流れは完全にお一人でやっているのでしょうか?研究者や専門家の方のサポートなどはあるのでしょうか?
いえ、一人でやってます。(本を)読むスピードがかなり鍛えられてきたようで、読むのが速いんだと思うんですよ。じゃなかったら、(一人では)無理だったかもしれないですけれども。それに一冊まるまる読む、というわけではなく、自分の欲しい情報を拾い上げるというか。それって多分学生時代に身につけられたコツみたいなものなんでしょうね。
―確かに、いかに労力を減らすか、っていう(笑)。
そうですそうです、自分の行きたいところに向かっての、必要な情報の探し方というか。だから多分、目標もなく探していたら、すごく時間がかかっちゃっていたと思います。話が出来たうえで読んでいるから、なんとか間に合っているというか。それでも毎月ギリギリですが(笑)。
―やはり締切に間に合わせるのは大変ですか?
大変ですね。話に関係ないところの資料(の確認)の方が多くて。例えば「初出形はどれか」とか、「著作権はどうなってるか」とか。その捜索が大変なんです。
―直接(話の筋とは)関係なくても大事な部分ですからね。
そうですね、引用するからには。結果、引用してはダメ、という時もありますしね。軍歌とかの著作権関係がよくわからないことが多くって、調べに調べたら、「やっぱコレだめだった」という時もありますね。そういう時は、「じゃあ別の歌に差し替えよう」ってなります。
『月に吠えらんねえ』は「人に説明しづれえ」!?
―『月に吠えらんねえ』は、この表現はどういう意味があるんだろう、という謎がすごくたくさんある作品だと思うのですが、ファンの方がツイッター上で「これはこういうことなんじゃないか」と深い考察をされています。そういった考察はご覧になってますか?
ツイッターは私は基本的にチェックしていないんですけれども、お手紙とか結構送ってくださる方がいて。「この表現はこういうことですか?」と。そういうものは、自分の意図とは違っていても面白いなあと思っています。
特に『月に吠えらんねえ』に関しては、わりと好きに受け取ってもらって良い漫画だと思っていて、全然私の意図どおりじゃなくて良いと思っているので、色んな意見が聞けるのは嬉しいです。あと、よくお手紙でも「感想を言葉にしづらい」とは言われてますね(笑)。
―感想も言葉にするのが難しいのですが、『月に吠えらんねえ』が「どんな漫画か」というのも言葉にするのが難しいです!
説明が難しいですよね。私も友達に、「人に薦めづらい」ってよく言われます(笑) 。(薦めるのは)一定の人じゃないと、っていうのはありますよね。だから全てにカッチリとした意味を求めて読む方だと、もしかしたらキツイのかもしれないですね。ちょっとナンセンスな部分もあるので。
―清家先生ご自身は、お知り合いに「どういう漫画描いてるの?」と聞かれた時はどのようにご説明されていますか?
「えーっと、文学の漫画なんですけど~」みたいな(笑)。それで相手の反応をうかがいますね。その時点の反応が「???」といった反応だったら、もうそれ以上はつっこまない(笑)。「えっ何のですか?!」と言われたら、「朔太郎とかの~」って、小出しにしていく感じで(笑)。
相手を探りながらですね。「詩」と言った時点でちょっと「ああ…」って(反応が芳しくない)感じだったら、もう、「失礼しました!」と(笑)。
―ツイッターはチェックされていないとのことですが、ハッシュタグをつけて4巻の感想を呟くと、プレゼントをもらえるキャンペーン(※)をされていましたよね。あれは清家先生発信の企画ですか?
いえ、前からアフタヌーンの企画で、ああいった企画がありまして。せっかく(『月に吠えらんねえ』の)公式アカウントもあることだし、やれたらいいね、とは話していて。で、やらせていただいた、という感じです。
※応募者全員にPC・スマートフォン用壁紙データとブックカバー用データをプレゼント。現在は受付終了。
―そうだったのですね、今回のプレゼントは太っ腹だなあと思いました。
はい、「当落」みたいなものがあるのは申し訳ないなあと思っていたので。やっぱり、読んでくださるだけでもありがたいですし……万人に受け入れられる(作品)とは言い難いので、できる限りの読者の方の気持ちにはお応えしたいなと思っています。(取材・文 ささ山もも子)
※その5に続く