『月に吠えらんねえ』企画展が石川近代文学館で開催 著者・清家雪子さんも来場

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詩人・萩原朔太郎。『月に吠えらんねえ』では朔のモデルに。

 

 

萩原朔太郎、北原白秋ら近代詩歌人たちをテーマとした漫画作品、『月に吠えらんねえ(講談社)』の3巻が、今年の4月に発売されたのを記念し、石川近代文学館(石川県金沢市)で9月19日から企画展が行われる。

 

 

出力原画や文学資料が展示されるほか、関連企画として、読者が選んだ漫画内のシーンがプリントされたクリアファイルが販売される予定だ。10月24日には、作者である清家雪子さんのサイン会&トークショー(※受付終了)が開催される。

 

 

本作には作者である清家さんが、近代詩歌人たちの作品から受けた印象をキャラクター化した人物たちが登場する。主要人物は、朔くん(元:萩原朔太郎)、白さん(元:北原白秋)、犀(元:室生犀星)である。彼らが住むのは近代詩歌人たちが集まる「近代□︎(詩歌句)街」。たまに「小説街」のキャラクターも□街に登場する。

 

今回の企画展は、犀こと室生犀星出生の地が金沢であることから実現した。

 

目次

個性豊かなキャラクターたち

 

『月に吠えらんねえ』の魅力は、何といっても個性豊かなキャラクター達である。例えば朔くんは、いつも作中で泣いている。「詩が書けない!!!」「悲しい!さびしい!!!」「詩を書きたい!!!!!」と。狂気に触れてうまれた詩を、捨てては泣き伏せる。暗い、暗いぞ、朔くん。

 

それでは実際の萩原朔太郎の作品はどうかというと、やはりその作品は暗い。「いつも泣いてるか狂ってるかだな」というのが、朔太郎の詩の第一印象だった。よくよく朔太郎について調べてみると、「詩はただ病める魂の所有者と孤独者との寂しい慰めである」と語っている。なるほど、納得の暗さである。

 

 

すべての娘たちは寝台の中でたのしげなすすりなきをする
ああ なんといふしあはせの奴らだ
この娘たちのやうに
私たちもあたたかい寝台をもとめて私たちもさめざめとすすりなきがしてみたい。
『青猫』寝台を求む より

 

 

いつも、
なぜおれはこれなんだ、
犬よ、
青白いふしあはせの犬よ。
『月に吠える』悲しい月夜 より

 

 

次に白さん。北原白秋といえば童謡で有名である。北原白秋の詩集は読んだことがなくとも、白秋作詞の童謡なら聴いたことがあるのではないだろうか。「この道」なんかは、草なぎ剛主演の「僕の生きる道」でも流れていたし、ほかにも様々なところで聴こえてくる印象がある。

 

 

この道はいつか來た道、
ああ、さうだよ、
あかしやの花が咲いてる
『この道』 より

 

それらの童謡から、「白さんはさぞ優しいおじ様であろう」と漫画を開けばびっくり。女からモテモテの色男であった。それでは、女にモテモテ色男の白さん、というキャラクターができるのに影響を与えた「ふさぎの虫」という作品だが、

 

 

まだ汝はあの女に未練があるのかいと俺の眼が剃刀の下からにつと笑ふ。
一生の恋だ、命かけての愛だの信実だのと云つた蜜の如うないつかの抱擁も千言万句の誓ひも歓語さゞめきも、但しは狂ひに狂つた欲念の焔も、ただ一息に押しこかしてゆく「時」の力の前には何等の矜持も権威もあつたものでは無い。時は過ぎてゆく、而して凡てが何時となく伝奇的な美しい幻想の色彩の中に掻き消されて了ふ……
(略)
鶏頭、鶏頭、俺はもう気が狂ひさうだ。
『桐の花』ふさぎの虫 より

 

う、うわー、エロい。「これがあの童謡のおじさんなの?」と目を疑ってしまった。こんなもの読んだら膝から崩れ落ちながら頭を抱えてしまう。「く〜〜〜ッ!」と言いながら机に突っ伏す筆者であった。白秋の詩集を買ってみると、多くの詩表現を試した詩人ということで、その作風は様々であった。詩集1冊を買い、その作風の変遷を感じてみるのも楽しいだろう。

 

そして最後に犀。筆者は「朔太郎と白秋の詩で何が好き?」と聞かれたら、「う〜ん」と悩んでしまうが、「それでは犀星では?」と問われれば即答できる詩がある。それは、以下の2つの作品である。

 

 

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食となるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや
『抒情小曲集』小景異情 より

 

 

ボンタン実る樹のしたにねむるべし
ボンタン思へば涙は走る
ボンタン遠い鹿児島で死にやつた
ボンタン九歳
ひとみは真珠
ボンタン万人に可愛がられ
らりるれろ
いろはにほへ、らりるれろ
ああ、らりるれろ
十歳で死にました
可愛いその手も遠いところへ
天のははびとたづねゆかれた
そなたのをぢさん
そなたたづねてすずめのお宿
ふぢこ来ませんか
ふぢこ居りませんか。
『ザボンの実る木のもとに』 より

 

これらの詩から、私は犀星のことを「自分に厳しく人に優しい人」という印象を持っていた。それでは『月に吠えらんねえ』の中の犀はというと、なんと顔がない。しかも作中、犀は旅に出ており、他の詩歌人たちと絡む描写が少ない。何度も顔を合わせた朔くんや白さん、他の詩歌人たちも「どうしてだろう、顔が思い出せないんだ」と言う。謎に包まれた人物だ。

 

室生犀星といえば「詩よ君とお別れする」を発表し、小説を書くことに力を入れていたようだ。(まあ、「詩よ君と〜」の発表の後にも多くの詩作をしていたのだが)犀の詩に惚れ一人の詩友として接していた中、突然の「詩よ君とお別れする」である。

 

周囲の詩人たちが「犀が何を考えているのかわからなくなった」と思うのは当然ではないだろうか、と思う。そういった戸惑いの描写が「犀の顔をなくする」というところじゃないのか、と筆者は邪推している。

 

 

この漫画を読むまでは「何から読めばいいかわからないんだよねえ。」と、近代詩歌に対して近寄りがたいイメージを持っていた。しかし、作中のキャラクターは近代詩歌人たちの「作品」を元に描かれており(※)、「このキャラクターが好きだから、この人の作品なら読めそう」と、近代詩歌を読む良いきっかけとなった。現にこの本を読んでから詩集を5冊、他にも句集を2冊ほど買ってしまった。

 

※朔くんの容姿は「月に吠える」と「青猫」、白さんのイケメンモテモテっぷりは「ふさぎの虫」から受けた印象によってキャラクター化したとのこと(月吠ノートより)。

 

『月に吠えらんねえ』は、筆者のように「近代詩歌読んでみたいんだけど、とっつきにくいんだよねー」と思っている人たちにとって良い入門書となるのではないだろうか。

 

そして近代詩歌に興味を持った方には、是非石川近代文学館へ行ってもらいたい。この漫画と石川近代文学館での展示を通し、今までよりも多くの文学を楽しむことができるようになるのではないだろうか(文・チ田)。

 

photo by kohmura masao

 

企画展『うたえ! □街の仲間たち!』

 

■日時
9月19日(土)~11月29日(日)

開館9時~17時(入館は16時30分まで)

※会期中無休

 

■会場
石川近代文学館(石川四高記念文化交流館内) 企画展示室1・2・3
石川県金沢市広坂2丁目2番5号 石川四高記念文化交流館内
TEL:076-262-5464
URL:http://www.pref.ishikawa.jp/shiko-kinbun/

 

■料金
一般:360円

大学生:290円

高校生以下:無料

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