ポアロ、ホームズ、金田一耕助……推理小説のような名探偵は本当にいるのか?現役の探偵に聞いてみた。

シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロ、金田一耕助、探偵物語の工藤俊作など、物語の世界には数多くの名探偵が存在する。誰もが見落とすようなことに気づく着眼点で疑問を抱き、その推理力で瞬時に謎を解き、犯人を追いつめていく……そんな名探偵は実在するのだろうか? 疑問を解決すべく、取材を敢行した。

 

協力いただいたのは、今まで数十社の探偵社の立ち上げを手掛け、自身もPRA探偵事務所を運営、コンサルティングやWEB関連事業などを行っている(株)S-CAPEの代表取締役でもある 嵯峨祐馬さんだ。

 

目次

ホームズのような名探偵は本当にいるのか?

 

――単刀直入に伺いますが、推理小説に出てくるような名探偵はいるのでしょうか?

 

いいえ。皆さんが想像するシャーロック・ホームズのような名探偵は、ここ日本にはいませんね

 

 

――日本には、ということは、海外にはいるのでしょうか?

 

そうですね。まず、海外と日本の探偵制度の違いを説明すると、欧米はライセンス制、日本は公安委員会からの認可制です。欧米だと事件があったときに、捜査をする上で警察が探偵にオファーする場合がありますが、日本では聞かないですね。

 

 

――日本の探偵は、どこまでできるのでしょう? 興信所や便利屋とはどんな違いが?

 

探偵は認可を受けると、探偵業法という法律で、尾行、聞き込み、張り込みを業として行うことが可能となります。大きな声では言えませんが、張り込み中であれば駐禁など切られなかったりするんですよ。車で張り込みをしていて、警察官が近づいてきても、探偵業の登録番号を見せると許可してもらえることもあります。

 

しかし、便利屋は認可を受けていないので、これらのことをすると非合法になってしまいます。ここが大きな違いですね。興信所と探偵はほとんどイコールです。

 

 

なるほど、名探偵はいないのか。うすうす予想していたものの、少し残念な結果に……。でも、探偵業への疑問はまだまだ多い。別の質問にも答えてもらおう!

 

最も多いのは恋愛絡みの依頼

 

――となると、探偵業で多い依頼はどのようなものでしょうか。

 

ポピュラーなのは恋愛絡みの依頼ですね。浮気調査や、別れたけれど忘れられない昔の恋人の動向調査です。その中でも、私どもが多く扱っているのは「復縁」の依頼です。

 

 

――復縁、と言いますと?

 

依頼者が付き合いたいと思っている相手に接触し、二人を恋人同士にするのです。方法は、工作員を投入したり、マインドコントロールをしたり、依頼者の見た目やコミュニケーション能力を改善したりと様々です。ありとあらゆる方法で二人をくっつけますね。

 

 

――これまでにどのような事例がありましたか?

 

とある企業で働く男性(30歳)から、部下の女性(23歳)に恋をしたので何とかしてほしい、と依頼がありました。その彼は相当に思いつめていて、恋が成就しなかったら、相手を殺して自分も死ぬ、と言ってきたのです。具体的に殺し方も紙にまとめていて、本気の様子でした。

 

そこで私たちがまず何をしたかというと、女性の工作員をターゲット(部下の女性)に接触させたのです。ターゲットの通りかかる道端で、工作員がおなかが痛いふりをしてうずくまったところ、思った通りに声をかけてきました。それがきっかけで仲良くなり、二人は一緒に食事などに行くようになったのです。

 

 

――ちょっと待ってください! 道端で偶然出会った二人が、そんなにすぐ仲良くなるものですか?

 

工作員は、アニメ「黒執事」のストラップを鞄に付けていたのです。ターゲットが「黒執事」を好きだということは、事前情報で仕入れていました。詳細はお話しできませんが、事前調査により住所、氏名、年齢、趣味、習い事、家族構成、好きな食べ物、嫌いな食べ物、交際履歴や性癖など、あらゆる情報を調べてから行動に移します。

 

 

――用意周到すぎる……それからはどのように?

 

ターゲットが依頼者のことをどう思っているのか探ると、「生理的にありえない」とのこと。そこで、対象となる相手に「占い工作」と呼ばれる仕掛けをしました。女性の多くは占いが好きじゃないですか? ターゲットと仲良くなっている工作員が、占いができる友人がいるという口実を作り、私の登場です。

 

相手の目をジーッと見て、「あなた、悩みがありますね?」と言えば、大抵の方が「はい」と答え、「何で分かるんですか?」と返ってくる。実はこれ、心理学の簡単な応用テクニックなんです。悩みなんて誰にでもあるのですが(笑)。詳しい内容は話せませんが、「彼には将来性がある、あなたを支えてくれる」といった類のマインドコントロールを繰り返し行います。

 

2ヶ月程かかりましたが結果的に、二人は無事に付き合うようになりました。

 

 

――生理的に無理、という状態からそこまでできるものなのですね……

 

もちろん、彼の方も改善しましたよ。それまではドラえもんの“のび太”のような見た目だったのが、私たちがアドバイスをしてファッションやヘアースタイルを変えさせて、別人のように変身させました。

完全にアウトなヤバい依頼

 

――むむむ……探偵の仕事はかなりすごいぞ。意中の人と付き合えるなんて夢みたいじゃないか。ちなみに、ヤバイと思った依頼はありますか?

 

ありますよ。「別れた恋人を探して欲しい」と依頼を受けたのですが、依頼者の言動や所作がおかしいのです。不審に思ってカバンを見せてもらうと、拳銃が入っていたことがありました。元恋人を見つけたら、拳銃で殺して自分も自殺しようとしていたようです

 

 

――そんなことがあったのですね……

 

もっと驚いたこともありました。私が探偵事務所を立ち上げたばかりで、まだ依頼が少なく、便利屋のような仕事も受けていた頃です。かなり高額な金額で、とある荷物を箱根の山奥まで運んで欲しいと頼まれました。

 

初めはトラックで運び、途中からレンタカーに移したのですが、荷物を持ったときに、形と重さから完全に◯◯◯だと気づいたんですよね。中身を確かめていないので確証はありませんが、今思い返しても怖いですね。

 

 

――きゃーーーー!!!!!!!!!!!

 

行方不明者探しも多いですね。日本では年間約9万人の程行方不明者がおり、95%以上はすぐに見つかっていますが、約1700人は何らかの事情で未だに見つかっていません。失踪人以外にも、世間に明るみになっていない犯罪に巻き込まれている方は確実にいるでしょう。

  

探偵に向いているのはこんな人

 

――わ、話題を変えましょう! 探偵と言えば尾行が思い浮かびますが、コツはありますか?

 

一番気を付けることは、ターゲットに視認されることです。人間の記憶力はかなり優れているので、少しでも特徴があると記憶するんですよ。服装に特徴が出ないように、田舎だと作業着、新宿ならくたびれたスーツを着て溶け込むようにしていますね。

 

さらに、バッグや指輪などにも特徴が出ないように気を付けます。基本、尾行は2人一組で、ターゲットと30mくらい距離を開けて行います

 

 

――見失ってしまうことはないのですか?

 

ありますよ。電車やタクシーに乗られると、さすがに見失ってしまいますね。ですが、大体行く場所は見当がついているので、別の班に先回りさせています。さらに、強力磁石で車に取り付けるGPSなど、探偵の使う道具も近年進化しているので、そういうものを使っていますね

 

 

――何だか探偵という仕事に興味が出てきたぞ! 探偵に向いているのは、どんな性格の人ですか?

 

知的好奇心がある人です。何かを見たときに「?」と思える思慮を、縦に深く、横にも広く持っていなければいけません。逆に飽きっぽい、面倒くさがり、考えることが苦手な方は探偵に向いていませんね。

 

 

――なるほど! 面白そうだけど、これまでの話を聞いていると、道は険しそうだ……ちなみに歴代の名探偵の中で、嵯峨さんがNo,1だと思うのは誰ですか?

 

ふざけた答えかもしれませんが、アニメ「デスノート」のL(エル)ですね(笑)。もし私がLの立場だったら夜神月(ライト)を倒せるか、真剣に客観的にシミュレーションしてみたのですが、やはり倒せませんでした。

 

あらゆる可能性を考えて、消去法で存在するはずのない死神の存在に辿り着いた。自分の推理を信じて行動できる非凡な人間。いいですね。

 

 

今回、嵯峨さんにはたくさんの話を聞かせてもらった。ここに書いているのは、まだまだ話せる範囲のこと。ヤバ過ぎて書けない内容の方が多かったくらいだ。皆さんも解決したい問題があれば、探偵に相談してみてはどうだろう。意中の人と付き合いたい、と「復縁」を依頼するのもいいかもしれない。

 

田山花袋の実体験を基にした小説「布団」は、愛する弟子・横山芳子に去られ、師匠の竹中時雄がその布団の匂いを嗅ぎまくるという、何とも切ないラストシーンが印象的な作品だ。嵯峨さんのような探偵がもしこの時代にいたら、「布団」は違った結末を迎えていたかもしれないのである。(取材・文 中澤雄介)

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