【前編】「クマムシ博士」堀川大樹 宇宙空間でも生きる? 地上最強の生物を愛した男

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クマムシ博士こと堀川さん。クマムシ帽子がキュートです!

 

世のなかには、まわりとはちょっと変わった生きかたをしている人がたくさんいます。今回お話をうかがったのは、そんな人間のひとり。「クマムシ」というめずらしい生きものに半生を捧げた男、堀川大樹さん。

 

クマムシとは?

体長0.1~1ミリ程度の四対の肢を持つ生き物。歩く姿がクマを思わせることからその名がついた。種類によって棲む環境が異なり、海や山、熱帯雨林、淡水・海水の中、身近なところでは道路上のコケに生息する。乾燥時には乾眠(かんみん)という仮死状態になって耐え、水が与えられると元通りになる。乾眠状態にはマイナス273度の極寒や100度の高温、ヒトの致死量の1千倍の放射線、水深1万メートルの75倍の圧力、真空など様々な極限的ストレスにも耐えることから、地上最強の生物と呼ばれる。

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この「クマムシ」を研究している堀川さんは、「クマムシ博士」という一風かわった肩書きをかかげているのです。

 

堀川大樹(クマムシ博士)

1978年生まれ。クマムシ研究で博士号を取得したのち、NASAのエイムズ研究センターへ。パリ第五大学およびフランス国立衛生医学研究所研究員を経て、現在は慶應義塾大学SFC上席所員として研究をしながら、クマムシのキャラクターグッズを手がけたり、ブログ運営や執筆、はたまたイベントに出演したりなど、クマムシ啓蒙活動に幅ひろく従事している。

 

そして先日、2冊目の著作となる『クマムシ研究日誌』を発売されたばかりです。

 

 

いったい、彼をそこまで魅了する「クマムシ」ってやつは、なんなんだ?! そして、揺るがぬ信念を胸に、独自の道をひた走る一人の男の半生とはいかに?!

 

 

クマムシ博士、インタビュースタートです!!

 

目次

メジャーなものより、マイナーなもののほうが惹かれますね

 

—「クマムシ」との出会いは、どのようなものだったんですか?

 

クマムシとのはじめての出会いは、大学4年のころです。研究室ではじめて目にしたのですが、あまりにおもしろい能力を持っているのにおどろきました。からからに乾燥しても水につければ生き返ったり、放射線にとても強かったり。

 

あとは、純粋にビジュアルがとてもかわいいと思いました。同じような能力をもっている生き物はほかにもいるんですけど、それでもクマムシを研究しようと思ったのは、やっぱり見た目にインスパイアされた部分が大きいですね。

 

それともともと、メジャーなものよりマイナーなもののほうが好きなんですよ。一部のアイドルファンが、有名なアイドルよりも地下アイドルを追っかけたくなるのと同じような心境だと思います。

 

 

—とはいえ、マイナージャンルの研究はとても大変そうですが……。

 

クマムシ研究を始めたのは2001年なんですけど、そのころは今よりもっとクマムシの知名度が低かったんです。生物学者のなかにすら、クマムシの存在を知らない人がいるくらいでした。

 

ほとんど手をつけられていないジャンルだったから、いい研究成果を出せるだろうとは思いました。でも、そもそもの情報量も少なかったので、最初はとても大変でした。どうやって育てればいいかもわからないし、エサが何かもわからない。なんとか苦労して飼育はできるようになったものの、クマムシ研究に対して政府からの予算がおりない。

 

日本だと、マイナーな研究はリスクがあるから国の予算がおりにくいんです。ガンのプロジェクトだとか、虫の研究でももっとメジャーなものだとお金を出してもらえるんですけどね。

 

博士号をとったあとの就職もきびしかったです。日本国内では10カ所くらい書類を送ってみたけど、全部ダメ。一年がんばってどこにも拾ってもらえなかったら、研究をやめようとまで考えていたんです。そんななか、たまたま一通だけ海外に出したNASAからオファーがあったので、アメリカに行くことになりました。

 

人とちがうことをやったから、海外に認められた

 

—なぜNASAにだけ応募したんですか?

 

クマムシは放射線にとても強いので、これを研究すれば地球外生命体についてもわかるのでは?と思い、学生時代にNASAが開催している国際学会に足を運んだんです。そこで「クマムシはすごいんだぞ!」というようなことを話したら、なんと、賞をもらうことができました。

 

そのときにNASA宇宙生物学研究所の所長さんにすごく気に入ってもらえて、「博士号を取った後は是非うちのフェローシップに応募しなさい」と言ってもらえたんです。日本とは逆で、人がやっていないことをやったから、アメリカでは認められたんですよね。

 

 

—海外で認められたことで、日本国内での評価にも変化はありましたか?

 

若干はありました。でも、だからといって、そのまま大学職員になるというわけにはいかないんですよ。

 

日本では、博士号を取ったあとに「ポスドク」という任期付きの研究員をやることになっています。ポスドクは比較的誰でもなれるんですけど、そこから大学教授や助教授などの安定したポジションにたどりつくのはとてもむずかしい。

 

つねにハイパーな競争があって、それに勝ち残ったわずかな人間しかそこには行けないんです。少子化で大学の教員数も減っているから、最近はさらに競争がきびしくなってますしね。

 

それに、仮にそこでのし上がってポジションを取れたとしても、今度は雑用などに追われてしまっていざ自分のやりたい研究にはそれほど時間を費やすことができなくなってしまう。そういうのも嫌でした。

 

キャラクタービジネスやブログが大ウケ!

 

—大学に就職しないことを決意し、自分で研究費を工面するためにキャラクタービジネスをはじめてみようということになったんですか?

 

タイミングとしてはそのあたりでした。ちょうど2010年くらいでしたが、そのころにはクマムシの名前がすこし有名になってきたんですよ。Twitterで「クマムシ」というワードでサーチをかけると、「クマムシってかわいい」とツイートしている女性がいたりもして。

 

それで、クマムシのかわいさをいかしてキャラクターを作ってみようと思いつきました。軽いノリではじめたので、最初はそこまでビジネス的なことは考えてなかったですけどね。

 

あと、ほぼ同時期にブログ「むしブロ」をはじめ、そのあと有料メルマガ「むしマガ」もはじめました。これが意外と好評で、出版社から声をかけていただいて本を書くことになったんです。

 

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堀川さんが考案したキャラクター「クマムシさん」

 

—処女作となる『クマムシ博士の「最強生物」学講座:私が愛した生きものたち』ですね。こちらはとても読みやすい文体が印象的でしたが、やはり、専門性のない読者の目を意識して書かれたんですか?

 

もちろん意識しましたね。この本はそれまでブログや有料メルマガで配信していたものに加筆して出したので、ブログを運営するなかで読者の反応をみながら学んでいったかんじです。

 

 

—クマムシにはメスしかいないことを「ドラゴンボール」のナメック星人に例えるなど、マンガの小ネタも多いですよね。

 

そうですね。ぼくと同世代か少し年下くらいの年齢層にむけて書いていたので、ドラゴンボールネタなど、その世代がわかるようなネタをおりこむようにはしています。

 

夢は、「乾燥人間」をつくること

 

ークマムシの乾眠のメカニズムを解明して、どんな状況でも生きられる「乾燥人間」を作るのが目標だと著書に書かれていましたね。

 

はい。例えば地球に隕石が落ちたり、長い氷河期が来たりしたら、ほかの惑星へ移住する必要がありますよね。けれど移動するにも、宇宙船の中は放射線が満ちています。そんな環境で生き延びられるのは、乾燥人間だけなんじゃないかなと思いますね。カラカラになって耐えて、安全な環境になったら水を吸収して元に戻る、カップラーメンみたいな人間です。

 

 

ー本当に実現できますか?

 

はい……って言わないとそこで終わってしまうので(笑)

 

 

—ちなみに、環境に強いクマムシの特性から、ストレス社会を生きる人たちになにか応用できることはあるでしょうか?

 

とにかく、気にしないことです。ストレスに対して鈍感になること。クマムシがストレスに強いというのは、ストレスに抗わないからなんです。だから、仮にストレスを感じそうになったとしても、それを無視して右から左へうけながすことが大事なんじゃないでしょうか。(後編へ続く)(取材&文 マナ・コノ)

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