【3/3】尊大を持たない又吉直樹と、彼の文壇バー巡礼の旅  『火花』には夢を持ってる人に対する思いを書いた

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仕事の失敗は、仕事で成功したときしか取り返せない

 

 ―夢を叶えるためには、チャンスの捕まえ方も大事かと思います。又吉さんはどうやって捕まえましたか?

 

いろんなタイプがいますからね。僕が自分くらいの才能しかない人間として考えるのは、腐ってる時間が無駄やなと思います。それこそ大天才やったら、腐っててもそれもおもろいみたいな。

 

僕くらいやと、常に真面目に、人の文句言うてるヒマあったら、自分のことをちゃんとやった方がいい、って思いながらやってきましたね。迷っていること自体もネタにしていくというか。それはすごく思いますね。

 

 

―例えば後輩の芸人で迷っている人がいたら、どんなことを伝えているのでしょう?

 

悩んでるんですって後輩に呼ばれて、辞める辞めへんの話だったら話しますけど、愚痴みたいなことだったときは、じゃあ一緒にネタ作ろうかみたいな感じで。止まっていることしかできへん悩みじゃなくて、モノ作る方の悩みに持っていくことをしていますね。

 

結局、仕事で失敗して落ち込んでるときって、次に元気出るときがいつかって言ったら、仕事で成功したときだけで、誰に慰められても恋人に慰められても立ち直れないんです。やってもうた、失敗した、あいつむかつくって愚痴言って、一時的な溜飲は下げられても、その先はないんで。

 

嫌なことがあったんなら、自分の仕事で取り返すための方向に、パワーとエネルギーを持っていく。それは自分が意識してやっているので、後輩が悩んでいても、そういう風にしています。

 

 

―芸人仲間で引退を決意する人も見てきたかと思いますが、やはり辛いものですか?

 

面白いのに辞めなあかんやつもおるし、そういう時はすごく辛いです。けど、それを辛いって言ってるのはこっちの価値基準で、それで人生が終わったわけじゃないので。そっちの方が楽しかったりすることも絶対あると思うから、それはそれで応援したいんですけどね。

 

 

才能ある若者が、作家を憧れの職業と捉えてくれたら

 

―又吉さんは、10年後や20年後のイメージをどう持っていますか?

 

僕は10年経ったら45歳で、15年経ったら50歳なんです。50歳で若手芸人はなかなか苦しいじゃないですか。でもどう考えても、上にめちゃめちゃ面白い人たちいっぱいいるから、10年後、15年後もあんまり状況変わってないんちゃうかなって思うんですよね。このままいったら、僕だけじゃなく周りも、50代くらいの奴が若手芸人っぽいことやるってなるんですけど。

 

でもそんなはずないなとも思ってて。50代の芸人がテレビ出てワチャワチャ言うてんのを、みんなは見たいですかね。本来、(テレビは)若者のもんじゃないかなと。(僕らは)劇場とかでやらなあかんのかなって思ってますね。文章もせっかく書かせてもらったんで、書いていきたいなーと思うんですけど。

 

 

―ありがとうございました。最後に、作家を目指す全ての人にメッセージをお願いします

 

僕は自分に何かできるとは思っていませんが、本(の業界)が盛り上がって、才能ある若者が作家を憧れの職業として捉えてくれたら。センスある人間がほかのジャンルに行かんと、小説書いたり、お笑いもそうなんですけど、来てくれるかもしれへん。

 

でもわりと、『火花』にそういう夢を持ってる人に対する思いみたいなのは書いたと思うんで、ぜひ読んでもらいたいですね。

 

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 月に吠える

■住所 東京都新宿区歌舞伎町1-1-10 新宿ゴールデン街G2通り

■TEL 080-8740-9958

■営業時間 19時~26時 (日曜は18~24時)

■定休日 なし

■平均予算 2000円

 

取材後記

約1時間30分の、短い巡礼の旅だった。又吉さんは終始淡々と、謙虚で、丁寧に質問に答えてくれた。例えば芥川賞関連の質問など、うんざりするほど聞かれているだろうが、それでもまったく嫌な顔を見せなかった(だから、この記事のタイトルは「尊大を持たない~」とした)。

 

質問に対する答えに「恥ずかしい」「照れくさい」という言葉が多かったのも印象的だった。例えば「月に吠える」で、オリジナルカクテル「走れメロス」を飲む彼に向かって、

 

コエヌマ「今度、『火花』っていうオリジナルカクテルも作りますよ」

又吉「はい。でも恥ずかしいから、メニューには載せんといてください。いつか僕がきたら、裏メニューで出してくださいね」

 

といった具合に。この物静かでシャイな青年から、溢れんばかりの生命力がほとばしる『火花』が生み出されたのかと思うと、不思議な感覚だった。

 

その感覚は、インタビュー終了後、こんな言葉に形を変えて、口をついて出た。次作も楽しみにしています、と。驚くほど月並みな言葉で、散々言われ続けてきたことなのかもしれない。しかし『火花』の読者の多くが、そう思っているのは紛れもなく事実だろう。すると新人作家は、はにかんだ笑顔で頷いた(取材・文 コエヌマカズユキ)。

 

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