昨年末に渋谷Bunkamuraでの公開を見逃したファンにとっては朗報です!
映画『毛皮のヴィーナス』が、4月25日~5月1日までの一週間、早稲田松竹にて上映されます。
監督は『戦場のピアニスト』などを手掛けた鬼才ロマン・ポランスキー、そして主演は彼の妻でもあるエマニュエル・セニエ。登場人物は彼女とマチュー・アマルリックのたった二人だけで、なかば密室状態の空っぽの劇場が舞台となっています。
『毛皮のヴィーナス』あらすじ
オーディションに遅刻してきた無名の女優ワンダと、自信家で傲慢な演出家のトマ。がさつで厚かましくて、知性の欠片もないワンダは、手段を選ばず強引にオーディションを懇願し、トマは渋々彼女の演技に付き合うことに。ところが、ステージに上がったワンダは、役を深く理解し、セリフも完璧。彼女を見下していたトマを惹きつけ、圧倒的な優位に立っていく。二人の芝居は熱を帯び、次第にトマは役を超えて、ワンダに身も心も支配されることに心酔していくのだが──。(早稲田松竹HPより引用) |
この映画の原作小説である『毛皮を着たヴィーナス』(1870)の作者は、たとえ知らなかったとしても名前を聞けば「なるほどあの人か!」と合点する人物。
レオポルド・フォン・ザッヘル=マゾッホ(1836-1895) ©Copyright Leopold Ritter von Sacher-Masoch. Foto. |
マゾッホ……
マゾッホ……
ん……? マゾ?
そうです、SMのM、つまりマゾである方のマゾッホさんです。「サディズム」の語源となったサド侯爵は有名ですが、「マゾヒズム」の語源となったマゾッホはそれほど日の目を浴びていないのではないでしょうか。
マゾッホはオーストリア出身の貴族で、歴史学を学んだのちに大学の歴史学講師として教鞭をふるっていました。しかし、その後まもなくアカデミックな経歴を投げ打って小説の執筆に専心するようになります。
そんな彼の作品に見られる、精神的あるいは肉体的な苦痛に快楽を感じる性倒錯は、精神科医クラフト=エビングによってのちに「マゾヒズム」と名付けられるようになりました。
その他の著作である『残酷な女たち』『魂を漁る女』なども、タイトルを見るだけでなんとなく内容をイメージできますよね……。
また、マゾッホ自身、情婦であった女性に毛皮を着せて隷従(れいじゅう)したり、お針子(※仕立屋に雇われて衣服を縫う女性)であった若い女性と結婚し、彼女に『毛皮を着たヴィーナス』のヒロインである「ワンダ」を名乗らせて、小説と同じようなシチュエーションを演じて隷従したりなど、プライベートでも大いに性的倒錯に打ち興じていたと言われています。
性的倒錯趣味をお持ちの方はもちろんのこと、今までそのような道に関与してこなかった人も、SM世界への導入としてこの折に劇場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
ちなみに、小説『毛皮を着たヴィーナス』の訳者は、サド研究の澁澤龍彦とも交流盛んであった種村季弘。日本の幻想文学シーンを牽引したキーパーソンなので、彼の著作も要チェックです(文・こーのまな)。
<早稲田松竹HP>
http://www.wasedashochiku.co.jp/