お笑いコンビ・ピースの又吉直樹による文芸小説『火花』が3月11日に発売される。
同作は「文學界」2月号に掲載された中編小説。文芸小説の執筆は初となるが、太宰治や芥川龍之介をこよなく愛し、芸能界随一の読書家として知られる又吉氏だけに、その作品には発売前から注目が集まっていた。
蓋を開けてみると、発売後に品切れとなる書店が続出し、多くのファンをやきもきさせる事態に。1933年に創刊した「文學界」の歴史の中で初めて増刷となるなど、社会現象を巻き起こすと同時に、改めて又吉効果の大きさを知らしめた。
発売元の文藝春秋によると、『火花』は初版で10万部以上発行されることがほぼ確実に。同社の文学小説の初版部数は通常6000~1万部で、10万部以上は村上春樹氏の『女のいない男たち』『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』以外に例が無く、大型新人に寄せられる期待の大きさを物語っている。
また、早くも芥川賞候補入りがささやかれるなど、賞レースへの絡みも注目が集まっている。
発売に向けて、又吉氏は「あほが書いた小説です。あほなりに人間を見つめて書きました。生きているとしんどいこともあります。そんな時、散歩したり本を読んだりすると、少しだけ楽になることがあります。誰かにとって、そんな本になれば嬉しいです。色の薄い壁に立て掛けると、映えると思います。よろしくお願いいたします」とコメントしている(文・コエヌマカズユキ)。
『火花』あらすじ
熱海の花火会場で漫才をする売れない若手お笑いコンビ「スパークス」の徳永と、同じイベントに出場していた「あほんだら」の神谷は、終了後に連れだって飲みに行く。神谷の訳の分からない魅力に引かれた徳永は、気づいたらこう口にしていた。「弟子にしてください」と。その夜から、二人は師弟関係になる。
並外れたセンスを持っている神谷だが、世間にも客にも迎合することは決して無く、ただひたすら自分が面白いと思った道を突き進んでいく。養ってくれていた女性と別れ、借金が膨れ上っても、そのスタイルや生き様は変わらない。そんな神谷に憧れながらも、叶わないことに気づいている徳永。ブームに乗って一時の人気を得るが、やがて自身のコンビが解散し、お笑いの世界を離れることに。だが新たな人生をスタートさせたその矢先、神谷は忽然と姿を消してしまう……。